どんなに難しいプレーも簡単にこなしてみせた天才であり、威厳に満ちた振る舞いで攻守両面に重要な役割を果たした彼は、ニューヨーク・コスモス（アメリカ）、ハンブルクでもリーグ優勝を果たし、83年に現役引退。個人としても66年、68年、74年、76年にドイツ年間最優秀選手に、72年と76年にはバロンドールを受賞している。

　さらに、84年にはまだ監督ライセンスを有していない状況にもかかわらず、母国代表を率いる任を引き受け、86年メキシコW杯では試合ごとにスタメンを適材適所で入れ替える巧みな采配で準優勝、そして自国開催のEURO88での悔しい準決勝敗退を経て、90年イタリアW杯ではタレント揃いのチームで快進撃を続け、決勝ではディエゴ・マラドーナのアルゼンチンに何もさせずに優勝。先日亡くなったブラジルのマリオ・ザガロに次いで二人目の、選手、監督の両方で世界一という名誉を手にした。

　全盛期のマルセイユ、古巣バイエルンでも指揮を執り、冷静沈着だった現役時代とは打って変わって感情を露にした闘将は、ピッチを離れるとバイエルンの会長、そして2006年に自国で開催されたW杯では大会組織委員長を務め、国内のスタジアムをはじめとする施設の近代化を実現し、大会そのものを大成功に導いている（大会招致においては不正疑惑も浮上して起訴されたこともあったが……）。
  　このように、ドイツ・サッカーにおいて計り知れないほどの功績を残した偉人の死に際して、同国サッカー連盟（DFB）は「彼は他に類を見ないほど、サッカー界に影響を与えた」、ブンデスリーガは「今も昔も、フランツはリーガの真の象徴だった」、バイエルンのヘルベルト・ハイナー会長は「選手として明るさ、優雅さ、魔法をもたらし、引退後もバイエルンで確固たる足跡を残した。クラブのファミリーは彼に永遠に感謝している」と、それぞれ弔意を示した。

　また、ドイツ連邦共和国のオラフ・ショルツ首相も「ドイツで最も偉大な選手のひとりであり、世代を超えてドイツ・サッカーに熱意を与えた。彼は多くの人々にとって 『皇帝』だった」と述べ、FIFA（国際サッカー連盟）のジャンニ・インファンティーノ会長は「本当に素晴らしい人物であり、サッカーの友人、チャンピオン、そして真のレジェンドだ」、UEFA（欧州サッカー連盟）のアレクサンダー・チェフェリン会長は「サッカー史上偉大な選手の功績には議論の余地がない」と、それぞれコメントを発している。

　代表チームでは盟友でありながら、クラブではボルシアMGのシンボルとしてライバル関係にあり、ベッケンバウアーの後釜として代表監督も務めたベルティ・フォクツは、「史上最高の選手のひとりであり、もし同じチームにペレ、エウゼビオ、ディエゴ・マラドーナがいたとしても、キャプテンはフランツだっただろう。彼の死は、ドイツだけでなく、欧州全体、いや世界のサッカーの損失だ」と嘆き、「彼の存在が忘れ去られることがないよう、DFBはポカール（国内カップ）に彼の名前を付けることなどを検討するべきだ」と訴えた。