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海外サッカー

持てる力を限界まで絞り出した「コンテの手腕がナポリの“勝因”」2位インテルとの隔たりは「微妙な差」【現地発コラム】

片野道郎

2025.05.26

ユベントス、インテル、そしてナポリでセリエAを制したコンテ監督。異なる3クラブでスクデットを獲得した唯一の指揮官となった。(C)Alberto LINGRIA

ユベントス、インテル、そしてナポリでセリエAを制したコンテ監督。異なる3クラブでスクデットを獲得した唯一の指揮官となった。(C)Alberto LINGRIA

 終盤戦は、ギリギリのところで歯を食いしばって勝点をもぎ取る苦戦の連続だった。決して厚いとはいえない選手層、レギュラーを固定し控えは文字通り控えとして扱うコンテの選手起用ポリシー、残り試合が減っていくに連れて高まるプレッシャー。心身ともに疲弊したチームにできるのは、重心を低く構えて消耗を最低限に抑えながら、試合の流れを的確に見極め、攻めるべき時に攻めてゴールを奪い、それを守り切ることだけだった。そしてナポリはそれを最後まで最大効率で成し遂げた。

 インテルが33~34節のボローニャ、ローマに連敗したのを尻目に、モンツァ、トリノからしっかり勝点3を奪って、マイナス3ポイントの2位からプラス3ポイントの首位に躍り出ると、残る4試合を2勝2分けで乗り切り、3勝1分けのインテルにわずか1ポイントのリードを保ってスクデットを勝ち取ったのだ。

 ハイライトは最終節のひとつ前。ナポリがアウェーでパルマ、インテルがホームでラツィオと戦った第37節だった。残り5分を切った時点で、ナポリはパルマを攻め切れず0-0のまま、一方のインテルは2-1でリード。このまま試合が終われば、インテルが勝点3を上積みし、勝点1のナポリを抜いて逆に1ポイント差で首位に返り咲くという状況だった。

 しかし、サン・シーロでは90分にVARが介入してラツィオにPKを与えられ、これをペドロ・ロドリゲスが冷静に決めて2-2の引き分け。一方パルマではアディショナルタイムに入った97分、ナポリにPKが与えられたものの、これもVARの介入で直前のプレーがファウルと判定されて取り消し。こちらも0-0の引き分けに終わって、ナポリがプラス1ポイントで首位の座を保った。

 このエピソードが端的に表わしているように、ナポリとインテルを最終的に隔てたのは、VARの判定ひとつでひっくりかえるほどに微少な差でしかなかった。文字通り、どちらが優勝してもおかしくなかったし、どちらにもその資格はあったと言えるだろう。

 ナポリには、アタランタを含めて終盤戦まで優勝争いに絡んだチームの中で唯一、欧州カップ戦の負担がなく、週1試合のペースでセリエAに専念して戦うことができるアドバンテージがあった。コンテはそれを最大限に活かすべく、メンバーを固定して試合を重ねることでチームの完成度を高め、そのおかげで終盤戦は明らかに疲弊が目立った側面があったにしても、少なくとも結果という観点から見れば最後まで大崩れすることなくシーズンを戦い抜いた。

 戦力的にはインテルはもちろん、アタランタと比べても明らかに劣っていた点を考慮に入れれば、すでに見た通りナポリは持てる力を限界まで絞り出したと言うことができるだろう。その意味で勝点82という結果は、ナポリというチームが持っていたポテンシャルの最大値だったとも言える。それを引き出したコンテの手腕こそがナポリの「勝因」だった。
 
 ちなみに、ナポリの勝点82は過去15年で最も低い優勝ラインである。それだけ力が均衡したシーズンだったとも言えるが、見方を変えれば本来もっと多くの勝点を挙げて然るべきチームが期待を裏切った側面もあるということになる。

 その意味で、2位インテルの勝点81が持てるポテンシャルを最大限に発揮した結果だったかと言えば、答えは明らかにNOということになる。なにしろ昨シーズンはほとんど同じメンバーで勝点94を叩き出し、独走優勝を果たしていたのだ。

 今シーズンのインテルは、セリエAに加えてチャンピオンズリーグ(CL)、コッパ・イタリアという3つのコンペティションで最後までタイトルを争うべく、年間60試合をパフォーマンスを落とさずに戦い抜く目的で構築されたチームだった。しかし、そのために不可欠な積極的なターンオーバーを支えるべき、メフディ・タレミ、ピオトル・ジエリンスキ、ダビデ・フラッテージ、クリスチャン・アスラーニといった控えの戦力が、期待されたほどのパフォーマンスを発揮できなかった。

 シモーネ・インザーギ監督は開幕当初から一貫して、レギュラー陣に対して徹底した出場時間管理を行ない、とくにセリエA中堅以下との対戦では、試合展開にかかわらず一定時間が過ぎたら予定通りの選手交代を行なってきた。怪我やパフォーマンス低下の予防という観点からは不可欠と言えるこのアプローチは、しかしピッチ上の結果には明らかにマイナスの影響をもたらした。

 アレッサンドロ・バストーニ、ハカン・チャルハノール、ディマルコといった主力を下げた後、終盤に失点して勝点を取りこぼした試合はひとつやふたつではない。結果的にはそれがスクデットを失う小さくない要因となったことは否定のしようがない。その反面、CLで決勝まで勝ち進んだ要因のひとつであることもまた確かなのだが。

 ナポリに話を戻せば、ピッチ上でのMVPにはやはりマクトミネイの名前を挙げるべきだろう。フィジカルの強度を武器にボール保持よりもむしろ非保持の局面で持ち味を発揮する実直なボックス・トゥ・ボックスMFとしてキャリアを送ってきた28歳が、コンテの下で攻撃に開眼。圧倒的な高さと強さをファイナルサードで活かす術を身に付け、ルカクと並ぶ得点源としてスクデット獲得に最大の貢献を果たした。優勝を決めた最終節での先制点をはじめ、12得点中8得点がチームにリードをもたらす重要なゴール。とりわけチームが青息吐息となった終盤戦、ラスト7試合で見せた6得点・2アシストの活躍は決定的だった。

文●片野道郎

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