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海外テニス

「今また精神的に充実していることが誇り」アルカラスがジャパンOP初戴冠で示した、世界1位であることの解<SMASH>

内田暁

2025.10.01

手負いの状態でも最後まで戦い抜き、ジャパンオープン初優勝を飾ったアルカラス。桁外れの力で観客を驚嘆させた。写真=滝川敏之

手負いの状態でも最後まで戦い抜き、ジャパンオープン初優勝を飾ったアルカラス。桁外れの力で観客を驚嘆させた。写真=滝川敏之

 時速214キロのサービスの残響音も残るなか、カルロス・アルカラスは、テイラー・フリッツの鋭いリターンを、柔らかなフォアのドロップショットで打ち返した。

 一瞬の、時が止まったかのような静寂。固唾を飲む人々の視線を集める打球は、ふわりと浮き上がり、ゆっくり、ネットぎりぎりを越えて相手コートへと沈む。

 同時に客席から湧き起こる、悲鳴にも近い大歓声。ただ客席の熱狂とは対称的に、勝者はフリッツを気遣ってか、拳を振り上げることすらなく、淡々とネット際へと歩みを進めた。道中、笑顔で客席にボールを高く打ち込む姿が、試合の終了を、すなわち、アルカラスの優勝を告げる。

 わずか2週間前にニューヨークで全米オープンを制し、男子テニスの世界1位に返り咲いたばかりの22歳が、初参戦のジャパンオープンで初優勝を成し遂げた。

 決勝の日も1万人近い観客が有明コロシアムを埋め尽くし、大会を通じ過去最高の12万人超えの総観客人数を動員した、今年のジャパンオープン。その吸引力は間違いなく、アルカラスだ。連日、彼の試合のみならず練習コートにも、凄まじい数のファンが詰め掛けた。恐らく、日頃はさほどテニスを見ない人々にも、“世界最強”の肩書きは強く訴えかけたはずだ。
 
 その人々の期待や予想を、アルカラスは超えていっただろう。唸り声と共に放つフォアハンドは、ボールが爆ぜるようなインパクト音のみで感嘆の声を誘う。かと思えば、直後にドロップショットを沈めて見せる。サーブ&ボレーでネットに詰めるスピードは速く、ボレーは技巧を極める。世界1位とはかくも強いのかと、観客を驚嘆させたはずだ。

 そしてそれは、ネットを挟む対戦相手にしても同様だ。決勝を戦ったフリッツは、過去アルカラスと4度対戦。直近は1週間前のレーバーカップで、その時はフリッツがストレートで快勝している。

 5度目の対戦となる今大会での決勝を控えた時、フリッツは、「過去の対戦の詳細は、ほぼ全て頭に入っている」と言った。その上で、「相手に反撃の機を与えぬほどに、攻め続けなければいけない」とのプランも明かしていた。

 果たして彼は、世界1位相手に策を実行していった。時速200キロを軽く超えていくサービスを軸に、両翼から強打をコーナーに打ち込んでいく。4度のブレークポイントに面するも、その全てを攻めの姿勢で切り抜けた。

 ただ互角に見える攻防の中でも、攻めるフリッツに少しずつ、耐えられない局面が見られ始める。焦りからか、攻めるタイミングが早い。一発で決めにいき、ミスになる。

 対するアルカラスには、スライスでペースを変え、守勢から一気に攻勢に出る余裕と、戦略的幅がある。並走状態で迎えた第9ゲーム、6度目のブレークポイントでフリッツのフォアが長くなり、ついにスコア上の均衡が崩れた。

 そして世界最強相手に、一度傾いた流れを堰き止める術は、なかなかない。第1セット終了と同時にフリッツが太ももの治療を受けた時、アルカラス優勢の色は一層濃くなる。
 
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