コーナーに刺さる時速220キロのサービスが、錦織圭の最後のグランドスラムにピリオドを打った。
2014年には、当時世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破り、決勝の舞台へと進んだ思い出の地。それから、12年――。予選から挑んだテニス四大大会「全米オープン」で、本戦の切符をかけ錦織が戦ったのは、20歳の坂本怜。自身に憧れの目を向け、その背を大きなストライドで追ってきた20歳が、最後の対戦相手となった。
身長195センチの坂本は、時速220キロ超えの高速サービスを、次々と相手コートに叩き込む。対する錦織は、ポイントごとにリターンのポジションを変え、腰を深く落とし、コースを読み切ったかのように反応する。ビッグサーバーに立ち向かう錦織の姿は、数々の名勝負の記憶を見る者に想起させただろう。坂本のサービスを錦織が早いタイミングで鋭く打ち返すたび、客席から驚嘆の声が上がる。ただその中で一人、全く驚いていない人がいた。
坂本だ。
錦織のリターン力を知る彼は、素早くポジションに入り、しっかり構え、ボールを強く打ち返す。子どもの頃から、錦織のプレーを瞼に焼き付けてきた彼には、「憧れの人」が放つボールの軌跡が読めているようだった。
それでも、矢継ぎ早に放たれる攻撃の前に、ボールに追い付かないこともある。反応できず、両手を広げ見送ることしかできないこともあった。
「ところどころ、マジで足が一歩も動かない所に打たれた。完璧に逆を突かれるショットもたまにあって、『うまっ!』って試合中に口にしてました」
後に振り返る彼は、「痺れましたね」とも述懐する。ネットを挟み対峙してなお、坂本は錦織のプレーに胸を高鳴らせていた。
「緊張していた」という立ち上がりこそブレークを許した坂本だが、試合が進むにつれサービスもストロークも威力を増し、錦織を力で押していく。第1セットの最後は、成長した姿を見てくれと叫ぶかのような、サービスエースの連発だった。
第2セットでは、錦織もワイドサーブを効果的に使い、組み立ての妙で自身のゲームをキープしていく。他方で坂本もサービスを両コーナー打ち分けて、錦織に的を絞らせない。
ボールを打つ際に2人が短く叫ぶ声が、まるで呼応するように交互に響く。
スタンドからの「ニシコリ」コールに重なるように、「サカモト」コールも沸き起こった。
4度あった坂本のブレークポイントを錦織がしのぎ、第2セットはタイブレークへとなだれ込む。だが7ポイント先取の短期決戦では、ここまでの趨勢がそのまま勝敗に直結した。タイブレークで坂本が決めたエースは、3本。センターへの134マイル(時速約215キロ)。ワイドへの116マイル(同186キロ)。そしてマッチポイントで決めたのは、ワイドへの137マイル(同220キロ)だった。
コートに倒れ、全身で勝利を噛み締める坂本の姿を眺めながら、錦織は「あー、寝てるわ」と思ったという。
2014年には、当時世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破り、決勝の舞台へと進んだ思い出の地。それから、12年――。予選から挑んだテニス四大大会「全米オープン」で、本戦の切符をかけ錦織が戦ったのは、20歳の坂本怜。自身に憧れの目を向け、その背を大きなストライドで追ってきた20歳が、最後の対戦相手となった。
身長195センチの坂本は、時速220キロ超えの高速サービスを、次々と相手コートに叩き込む。対する錦織は、ポイントごとにリターンのポジションを変え、腰を深く落とし、コースを読み切ったかのように反応する。ビッグサーバーに立ち向かう錦織の姿は、数々の名勝負の記憶を見る者に想起させただろう。坂本のサービスを錦織が早いタイミングで鋭く打ち返すたび、客席から驚嘆の声が上がる。ただその中で一人、全く驚いていない人がいた。
坂本だ。
錦織のリターン力を知る彼は、素早くポジションに入り、しっかり構え、ボールを強く打ち返す。子どもの頃から、錦織のプレーを瞼に焼き付けてきた彼には、「憧れの人」が放つボールの軌跡が読めているようだった。
それでも、矢継ぎ早に放たれる攻撃の前に、ボールに追い付かないこともある。反応できず、両手を広げ見送ることしかできないこともあった。
「ところどころ、マジで足が一歩も動かない所に打たれた。完璧に逆を突かれるショットもたまにあって、『うまっ!』って試合中に口にしてました」
後に振り返る彼は、「痺れましたね」とも述懐する。ネットを挟み対峙してなお、坂本は錦織のプレーに胸を高鳴らせていた。
「緊張していた」という立ち上がりこそブレークを許した坂本だが、試合が進むにつれサービスもストロークも威力を増し、錦織を力で押していく。第1セットの最後は、成長した姿を見てくれと叫ぶかのような、サービスエースの連発だった。
第2セットでは、錦織もワイドサーブを効果的に使い、組み立ての妙で自身のゲームをキープしていく。他方で坂本もサービスを両コーナー打ち分けて、錦織に的を絞らせない。
ボールを打つ際に2人が短く叫ぶ声が、まるで呼応するように交互に響く。
スタンドからの「ニシコリ」コールに重なるように、「サカモト」コールも沸き起こった。
4度あった坂本のブレークポイントを錦織がしのぎ、第2セットはタイブレークへとなだれ込む。だが7ポイント先取の短期決戦では、ここまでの趨勢がそのまま勝敗に直結した。タイブレークで坂本が決めたエースは、3本。センターへの134マイル(時速約215キロ)。ワイドへの116マイル(同186キロ)。そしてマッチポイントで決めたのは、ワイドへの137マイル(同220キロ)だった。
コートに倒れ、全身で勝利を噛み締める坂本の姿を眺めながら、錦織は「あー、寝てるわ」と思ったという。




