「圧倒されましたね。ティアフォーの雰囲気と、会場の雰囲気に飲まれました」
試合終了からほぼ間を置かずに行なわれた、会見の席。「率直な感想」を問われた坂本は、開口一番、そう言った。
「ああいうでっかいスタジアムで、パンパンに人が詰まってやることって、なかなかないんで。もう圧倒されました」
テニス四大大会「全米オープン」男子シングルス2回戦の、フランシス・ティアフォー(アメリカ)対坂本怜。世界12位の地元人気選手に挑んだ坂本の挑戦は、3-6、6-7(2)、5-7、試合時間2時間40分で幕を閉じた。
ティアフォーと坂本の試合が組まれたルイ・アームストロング・スタジアムは、14,000席を擁する同大会で2番目に大きなコート。超満員の観客の大半は、地元の人気選手を見に詰め掛けた人々だ。
加えて、全米オープンが他のテニス大会と異なるのは、『音』である。人々の話し声や雑踏がすり鉢状のスタジアム内で反響し、ザワザワとしたノイズが絶え間なくコートを覆う。多くのテニス選手にとって、経験することのない舞台だ。
ただそのニューヨーク特有のエネルギーを、誰より好む選手がいる。ティアフォーだ。今年が12度目の全米オープンとなるティアフォーは、ルイ・アームストロング・スタジアムで無敗を誇る。「会場の雰囲気に飲まれた」という坂本に対し、ティアフォーはこの会場を支配する。時に淡々と、時にスーパープレーを決め観客を煽りながら、テニス界のエンタテイナーは、ナイトセッションのスタジアムを堪能しているようだった。
対する坂本も、試合立ち上がりこそ明確に硬さが見られたが、徐々に自分のプレーを取り戻す。第3ゲームは、サービスのみでラブゲームキープ。第5ゲームでは、6度のデュースを重ねブレークチャンスもつかんだ。第2セットは終盤にブレークし、タイブレークにまで持ち込む。傍目には、互角の攻防に見えた。
ただコートに立つ坂本が見ていた景色は、外から見えるそれと異なっていたようだ。
「第1セットでは『ワンチャンいけるよな』って思ったんです。でも第2セットから、僕がリターンゲームで15-30や0-30とチャンスになった時や、タイブレークの時に、『絶対に上げようと思ったら、上げられるんだな』というのをわからされて。そこからは少し認めちゃいましたね、彼が強いっていうのを...」
背中を捉えたと思った瞬間、相手はギアを入れ替えて、一気に置き去りにされる。その都度、力量を見せつけられる、心理的にも苦しい瞬間が続いていたようだ。決定的だったのは、並走状態だった第3セットの第9ゲームで、坂本がブレークチャンスを得た場面。坂本が主導権を握る打ち合いから、ティアフォーはベースラインギリギリに乗る、バックのパッシングショットをねじ込んだ。それを見た時、坂本は「エグいな」と思ってしまったという。
「普段だったら、『ラッキーやな』とか『次は入らんやろ』と思うんですが、あの時は『エグいな』と思ってしまった」
いつもと異なる心の動きに、坂本は「飲まれてしまっていた自分」を、どこかで客観視していたようだ。
淡々と試合を振り返る口調に、むしろ無念と悔いがにじむ。ただ、ルイ・アームストロング・スタジアムの帝王と戦った経験は、予選から勝ち上がり、自らの手でつかみ取った財産でもある。
「次に、地元の選手相手に大きいスタジアムでナイトマッチをやる時に、何に気を付ければ良いかというのが、僕はわかった。成長につなげられる経験はしたんじゃないかなと思います」
「僕はわかった」と言う素朴な口調に、むしろ矜持と確信が宿る。何事も糧となる20歳。ニューヨークの夜の教訓を生かす機会は、きっとすぐにでも訪れる。
現地取材・文●内田暁
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試合終了からほぼ間を置かずに行なわれた、会見の席。「率直な感想」を問われた坂本は、開口一番、そう言った。
「ああいうでっかいスタジアムで、パンパンに人が詰まってやることって、なかなかないんで。もう圧倒されました」
テニス四大大会「全米オープン」男子シングルス2回戦の、フランシス・ティアフォー(アメリカ)対坂本怜。世界12位の地元人気選手に挑んだ坂本の挑戦は、3-6、6-7(2)、5-7、試合時間2時間40分で幕を閉じた。
ティアフォーと坂本の試合が組まれたルイ・アームストロング・スタジアムは、14,000席を擁する同大会で2番目に大きなコート。超満員の観客の大半は、地元の人気選手を見に詰め掛けた人々だ。
加えて、全米オープンが他のテニス大会と異なるのは、『音』である。人々の話し声や雑踏がすり鉢状のスタジアム内で反響し、ザワザワとしたノイズが絶え間なくコートを覆う。多くのテニス選手にとって、経験することのない舞台だ。
ただそのニューヨーク特有のエネルギーを、誰より好む選手がいる。ティアフォーだ。今年が12度目の全米オープンとなるティアフォーは、ルイ・アームストロング・スタジアムで無敗を誇る。「会場の雰囲気に飲まれた」という坂本に対し、ティアフォーはこの会場を支配する。時に淡々と、時にスーパープレーを決め観客を煽りながら、テニス界のエンタテイナーは、ナイトセッションのスタジアムを堪能しているようだった。
対する坂本も、試合立ち上がりこそ明確に硬さが見られたが、徐々に自分のプレーを取り戻す。第3ゲームは、サービスのみでラブゲームキープ。第5ゲームでは、6度のデュースを重ねブレークチャンスもつかんだ。第2セットは終盤にブレークし、タイブレークにまで持ち込む。傍目には、互角の攻防に見えた。
ただコートに立つ坂本が見ていた景色は、外から見えるそれと異なっていたようだ。
「第1セットでは『ワンチャンいけるよな』って思ったんです。でも第2セットから、僕がリターンゲームで15-30や0-30とチャンスになった時や、タイブレークの時に、『絶対に上げようと思ったら、上げられるんだな』というのをわからされて。そこからは少し認めちゃいましたね、彼が強いっていうのを...」
背中を捉えたと思った瞬間、相手はギアを入れ替えて、一気に置き去りにされる。その都度、力量を見せつけられる、心理的にも苦しい瞬間が続いていたようだ。決定的だったのは、並走状態だった第3セットの第9ゲームで、坂本がブレークチャンスを得た場面。坂本が主導権を握る打ち合いから、ティアフォーはベースラインギリギリに乗る、バックのパッシングショットをねじ込んだ。それを見た時、坂本は「エグいな」と思ってしまったという。
「普段だったら、『ラッキーやな』とか『次は入らんやろ』と思うんですが、あの時は『エグいな』と思ってしまった」
いつもと異なる心の動きに、坂本は「飲まれてしまっていた自分」を、どこかで客観視していたようだ。
淡々と試合を振り返る口調に、むしろ無念と悔いがにじむ。ただ、ルイ・アームストロング・スタジアムの帝王と戦った経験は、予選から勝ち上がり、自らの手でつかみ取った財産でもある。
「次に、地元の選手相手に大きいスタジアムでナイトマッチをやる時に、何に気を付ければ良いかというのが、僕はわかった。成長につなげられる経験はしたんじゃないかなと思います」
「僕はわかった」と言う素朴な口調に、むしろ矜持と確信が宿る。何事も糧となる20歳。ニューヨークの夜の教訓を生かす機会は、きっとすぐにでも訪れる。
現地取材・文●内田暁
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