残念ながら中止となってしまった今年のウインブルドン。そこで本来ならば大会が開催されているこの時期に合わせ、過去の名勝負をシリーズで掲載する。今回は日本中のテニスファンをテレビの前に釘付けにした、1996年大会で見せた伊達公子の快進撃とステフィ・グラフとの一戦だ。
◆ ◆ ◆
“逆転の神話”は2回戦から始まった
「第1ゲームからいい形で抜け出せた」。伊達に白い歯がこぼれた。まさかそれが、最初で最後のストレート勝ちになろうとは……。
1回戦は長塚京子との対戦。得意のリターンが冴えわたり、8ゲームを連取した。日本人同士で当たることを苦手としている伊達は、カウンターアタックで長塚に反撃のチャンスを与えず、1回戦を突破。6-0、6-3の圧勝、わずか53分だった。
“逆転の伊達”――神話は2回戦から始まる。相手はフランスの新鋭、16歳のアンガエル・シド。伊達は立ち上がり3ゲームを連取し、若い勢いを止めようとするが、第4ゲームのダブルフォールトから崩れ始め、タイブレークで第1セットを落とした。
しかしここから自分のペースを取り戻し第2、第3セットは伊達が6-3、6-3で奪う。
3回戦はオランダのクリスティ・ブーゲルト、サービスの速い選手だ。
かねてから伊達には、全仏オープンやウインブルドンは、「気候が変わりやすく、気分がのりにくい」と苦手意識があった。この日のウインブルドンも、気温が低く、冷たい風も吹きつけていた。
2回戦と同様、第1セットを落とした後、やっと伊達のエンジンがかかってきた。2-6、6-4、6-2で勝利を収め、ウインブルドンの1週目を終える。
少し危なっかしさもあったが、前半戦を終えた後、伊達は「グランドスラムは第2週目から本当の勝負が始まる。気合を入れて臨まないと」と、トップランカーとしての貫禄を見せた。
緊張に慣れながら調子を上げてゆく――。
伊達の試合は静かに、淡々と続く。派手なパフォーマンスもないし、声を出すのは、思いどおりにならないストレスを発散する時だけ。
見る人が見れば、なぜ強いのか理解できないかもしれない。しかしそれは、伊達の不器用さを表している。対戦する相手、気温、風、サーフェス。その環境に自分を慣らすのに時間がかかるのだ。
だから伊達は第1セットを落としても動揺しない。そればかりか、相手の特徴を押さえ、テニスの調子は上がり、集中力も増していく……。
それが伊達のテニスだ。
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“逆転の神話”は2回戦から始まった
「第1ゲームからいい形で抜け出せた」。伊達に白い歯がこぼれた。まさかそれが、最初で最後のストレート勝ちになろうとは……。
1回戦は長塚京子との対戦。得意のリターンが冴えわたり、8ゲームを連取した。日本人同士で当たることを苦手としている伊達は、カウンターアタックで長塚に反撃のチャンスを与えず、1回戦を突破。6-0、6-3の圧勝、わずか53分だった。
“逆転の伊達”――神話は2回戦から始まる。相手はフランスの新鋭、16歳のアンガエル・シド。伊達は立ち上がり3ゲームを連取し、若い勢いを止めようとするが、第4ゲームのダブルフォールトから崩れ始め、タイブレークで第1セットを落とした。
しかしここから自分のペースを取り戻し第2、第3セットは伊達が6-3、6-3で奪う。
3回戦はオランダのクリスティ・ブーゲルト、サービスの速い選手だ。
かねてから伊達には、全仏オープンやウインブルドンは、「気候が変わりやすく、気分がのりにくい」と苦手意識があった。この日のウインブルドンも、気温が低く、冷たい風も吹きつけていた。
2回戦と同様、第1セットを落とした後、やっと伊達のエンジンがかかってきた。2-6、6-4、6-2で勝利を収め、ウインブルドンの1週目を終える。
少し危なっかしさもあったが、前半戦を終えた後、伊達は「グランドスラムは第2週目から本当の勝負が始まる。気合を入れて臨まないと」と、トップランカーとしての貫禄を見せた。
緊張に慣れながら調子を上げてゆく――。
伊達の試合は静かに、淡々と続く。派手なパフォーマンスもないし、声を出すのは、思いどおりにならないストレスを発散する時だけ。
見る人が見れば、なぜ強いのか理解できないかもしれない。しかしそれは、伊達の不器用さを表している。対戦する相手、気温、風、サーフェス。その環境に自分を慣らすのに時間がかかるのだ。
だから伊達は第1セットを落としても動揺しない。そればかりか、相手の特徴を押さえ、テニスの調子は上がり、集中力も増していく……。
それが伊達のテニスだ。