海外テニス

“聖地の神様”が伊達公子に与えたベスト4の栄誉と日没という悪戯…/1996年女子準決勝【ウインブルドン名勝負】

スマッシュ編集部

2020.07.09

テニスの聖地と呼ばれるウインブルドンで見せた伊達の快進撃に日本中が熱狂した。写真:滝川敏之(THE DIGEST写真部)

 残念ながら中止となってしまった今年のウインブルドン。そこで本来ならば大会が開催されているこの時期に合わせ、過去の名勝負をシリーズで掲載する。今回は日本中のテニスファンをテレビの前に釘付けにした、1996年大会で見せた伊達公子の快進撃とステフィ・グラフとの一戦だ。

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"逆転の神話"は2回戦から始まった

「第1ゲームからいい形で抜け出せた」。伊達に白い歯がこぼれた。まさかそれが、最初で最後のストレート勝ちになろうとは……。

 1回戦は長塚京子との対戦。得意のリターンが冴えわたり、8ゲームを連取した。日本人同士で当たることを苦手としている伊達は、カウンターアタックで長塚に反撃のチャンスを与えず、1回戦を突破。6-0、6-3の圧勝、わずか53分だった。

 "逆転の伊達"――神話は2回戦から始まる。相手はフランスの新鋭、16歳のアンガエル・シド。伊達は立ち上がり3ゲームを連取し、若い勢いを止めようとするが、第4ゲームのダブルフォールトから崩れ始め、タイブレークで第1セットを落とした。

 しかしここから自分のペースを取り戻し第2、第3セットは伊達が6-3、6-3で奪う。

 3回戦はオランダのクリスティ・ブーゲルト、サービスの速い選手だ。

 かねてから伊達には、全仏オープンやウインブルドンは、「気候が変わりやすく、気分がのりにくい」と苦手意識があった。この日のウインブルドンも、気温が低く、冷たい風も吹きつけていた。
 
 2回戦と同様、第1セットを落とした後、やっと伊達のエンジンがかかってきた。2-6、6-4、6-2で勝利を収め、ウインブルドンの1週目を終える。

 少し危なっかしさもあったが、前半戦を終えた後、伊達は「グランドスラムは第2週目から本当の勝負が始まる。気合を入れて臨まないと」と、トップランカーとしての貫禄を見せた。

 緊張に慣れながら調子を上げてゆく――。

 伊達の試合は静かに、淡々と続く。派手なパフォーマンスもないし、声を出すのは、思いどおりにならないストレスを発散する時だけ。

 見る人が見れば、なぜ強いのか理解できないかもしれない。しかしそれは、伊達の不器用さを表している。対戦する相手、気温、風、サーフェス。その環境に自分を慣らすのに時間がかかるのだ。

 だから伊達は第1セットを落としても動揺しない。そればかりか、相手の特徴を押さえ、テニスの調子は上がり、集中力も増していく……。

 それが伊達のテニスだ。
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