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フェデラーがロディックとの果てしなき死闘を制し、前人未到のGS15勝目!/2009年男子決勝【ウインブルドン名勝負】

渡辺隆康(スマッシュ編集部)

2020.07.12

四大大会15勝目の新記録を達成したフェデラー(左)。試合後、ロディック(右)はサンプラスに「阻止しようと思ったけどダメだったよ」と語りかけたという。写真:THE DIGEST写真部

 ウインブルドンの過去の名勝負を振り返るシリーズもこれが最終回。ラストを飾るのは、2009年男子決勝、フェデラー対ロディックの死闘だ。

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「ここで記録を破ることができて幸せだ。僕の憧れのヒーローたちが成功を収めてきた場所だから、僕にとって一番意味がある大会なんだ」

 フェデラーは前人未到のグランドスラム15勝という記録を達成できたことを、こう表現して喜んだ。ロイヤルボックスでは、これまでの記録保持者だったサンプラスも見守っていた。「彼が入って来たのを見た時、実はちょっと緊張したんだ」と、フェデラーは試合中にもかかわらずサンプラスを意識したことを明かす。

 2年ぶり6回目の優勝、7年連続の決勝進出、そしてナダルを抜いてのATP1位復帰。この大会でフェデラーが手にした栄誉は数多いが、やはりGS最多優勝の記録は特別だったようだ。彼だけでなく、ファンも、メディアも、それを今大会の最大の興味として心待ちにしていた。決勝の相手が相性の悪いマリーではなく、過去18勝2敗と圧倒しているロディックになったことで、周囲は余計にフェデラーが優勝すると考えた。
 
 だからこそ、ロディックが極めてハイレベルなテニスを見せ、最後の最後まで勝負そのものを堪能させてくれたことは、観客にとっては予期せぬプレゼントだったろう。いやもっと言えば、フェデラーの記録云々などどこかへ吹き飛んでしまうほど、皆が純粋にこの歴史的な死闘に引き込まれてしまった。

 立ち上がりからロディックは盤石のサービスキープを続けた。最速230キロを記録したビッグサービスは昔からの武器だが、今回特に目を引いたのは、どんな状況でも崩れないストロークの安定感だ。しかも、よく指摘されてきたスピン過多の球質ではなく、厚い当たりの攻撃的なボールを、ほとんどミスせず相手コートに送り続けた。ロディックは今の自分のテニスを「この2、3年で最高のレベルにある」と言う。昨年末からラリー・ステファンキをコーチに迎え、厳しいトレーニングを積んだ結果がそのストロークに表れていた。