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国内テニス

“謀反を起こす肉体”との戦い…プロテニスプレーヤー河内一真を襲った"イップス"の恐怖【前編】

内田暁

2020.08.14

自分では気づいていなかったフォームの変化を、最初に指摘してくれたのは高校時代の部活の仲間だったという河内。写真:内田暁

自分では気づいていなかったフォームの変化を、最初に指摘してくれたのは高校時代の部活の仲間だったという河内。写真:内田暁

 “異変”に気がついたのは、自身よりも、他者の視線が先だった。
「サービス、変えた?」

 高校生として過ごす、最後の夏が迫ってきたある日。部員に言われたその一言は、彼にとって身に覚えのない指摘だった。

 だが、サービスを打つ姿を動画に撮って見てみると、確かにモニターに映るフォームは自身のイメージと大きく異なっている。具体的には、サービスを打つ際のトロフィーポーズで、ヒジが全く上がっていない。

 身体的感覚と、実際の運動メカニズムとの乖離――それは始まりの時点では、「なんでだろう?」という小さな疑問符に過ぎなかった。
“イップス”などという呪縛的な言葉とは、まだ出会う前のことである。

「今でも正直、何が原因だったのか分からないんです。たいがいイップスには、きっかけがあるというじゃないですか。でも僕の場合は人に言われるまで気づかなかったし、その前日まで何も意識せずに試合もしていたので」。

 プロ転向から、8年目。今年10月に26歳になる河内一真は、乾いた声で明瞭に始まりの時を振り返りはじめた。
 
  イップス(YIPS)――この言葉は、20世紀前半に活躍した名ゴルファーのトミー・アーマーによって生み出された。アーマーは、1967年に上梓した著書『ABCゴルフ』の中で、自身が命名した「イップス」を次のように定義している。

「今までスムーズにパッティングをしていたゴルファーが、ある日突然、緊張のあまりにほんの数センチ、あるいはカップをはるかにオーバーするようなパットを打ったりするようになる病」。

 ここで「病」と書かれてはいるものの、「イップス」はあくまで表面化した症状であり、原因によって規定されている訳ではない。その中であり得る原因のひとつに、古くからピアニストや書家に見られる“局所性ジストニア”がある。

 局所性ジストニアとは、一定の姿勢を保ちながら特定の習熟した技を出そうとした時に限り、腕や指などの筋肉が収縮し、本人の意思とは無関係に動いてしまう(あるいは動かなくなる)神経疾患のこと。その原因は皮肉なことに、過度な反復練習にある。何度も同じ動きを繰り返すことで脳内には高度な運動プログラムが組まれるが、それらを同時起動しようとしてフリーズを起こす……そのような状態だ。
 

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