海外テニス

「センパイ」と呼んだ土居美咲と、逆転した立場で相対した大坂なおみの胸の内【全米テニス】

内田暁

2020.09.02

土居との2度目の対戦に勝利した大坂。その胸に去来したのはどんな思いか?(C)GettyImages

 大坂なおみにとって土居美咲は、「センパイ」と呼ぶ存在だった。

 フェドカップ日本代表などでプレーし始めたばかりのころ、大坂を仲間として招き入れ、何かと気を掛けてくれたのが、土居美咲や奈良くるみたち。

 その土居と大坂が始めて対戦したのが、2016年の東レパンパシフィックテニスの初戦、場所は有明コロシアムだった。土居は、キャリア最高のシーズンを疾走していた34位。一方の当時18歳の大坂は、まだ粗さはあるものの、持てるポテンシャルを開花させつつあった66位。

 日本開催の大会での初戦対決で、プレッシャーとやりにくさを覚えていたのは、土居の方だったろう。結果は、大坂の6-4、6-4。この勝利で勢いを得た18歳は、その後も上位勢を次々に破り、決勝の舞台にまで到達した。

 それから4年。
 両者の2度目の対戦は、全米オープン初戦で訪れた。戦いの舞台は、世界最大のテニス専用アリーナであるアーサー・アッシュ・スタジアムである。
 
 日本の「センパイ」を「サウスポーで動きの良い、危険な選手」と警戒する大坂は、土居が「失う物はないという心境になり、プレーのレベルを上げてくる」ことを予測していたという。

 対する土居は、大坂のパワーとショットスピードを十分に承知した上で、「動きで対抗する」と明言。久々の対戦ではあるが、両者は相手のプレーや心境をも十分に理解した上で、センターコートで相対した。

 試合開始と同時に叩き込んだフォアの鮮やかなウイナーは、土居の意思表明と言えるだろう。フォアで相手を動かし、オープンコートができれば恐れず左腕を振り抜き強打を打ち込む。一歩も引かぬ強い意志が、プレーから放たれていた。

 その土居の気迫に対し、大坂は腰を据えて対抗する。特別なことをするわけではない。だが、土居のフォアのクロスを早いタイミングでバックで叩き、ジリジリと打ち合いを支配した。第1セットは、ミスをわずか5本に抑えた大坂が6-2で奪取する。

 第2セットに入ると、若干、大坂が安堵しただろうか。この相手の一瞬の緩みを逃すことなく、土居はスライスやループも織り交ぜつつ、常に大坂を動かしていく。サウスポーの利点を生かし、ワイドへのサーブで相手を追い出し、オープンコートにフォアで打ち込むパターンも生きる。ブレークで先行し、追いつかれるも最後の一歩を競り勝った土居が第2セットを奪い返した。