海外テニス

全米決勝で戦う大坂なおみとアザレンカ。"同じコーチ"を求めた2人が持つ共通の思いとは…【全米テニス】

内田暁

2020.09.12

前哨戦決勝をケガで棄権した大坂が、再び同じ相手と対峙したのは必然だったのかもしれない(写真は前哨戦表彰式)。(C)Getty Images

「あの頃と今とでは、心の有り様や物ごとの捉え方が大きく違う」

 これは2020年全米オープンの決勝を戦う2人が、いずれも口にした言葉である。

 片や、ここから黄金時代を築かんとする22歳で、片やケガや出産によるツアー離脱を経験し、そこからの完全復帰を目指す31歳。2人が述懐する「あの頃」も、ひとりが2年前の日を指せば、もうひとりが指すのは7年前だ。

 ただそんな2人にも、いくつかの共通点がある。両者ともに、2つのグランドスラムタイトルを手にしていること。そして、その栄冠の光に伴う陰や苦悩も味わってきたこと。

 大坂なおみと、ビクトリア・アザレンカ。

 いずれも"元世界1位"の肩書を背負う両者の足跡は、それぞれのキャリアの異なる地点において、今年の全米オープン決勝戦で交錯する。

 大坂とアザレンカの対戦は過去3度あるが、印象的なのは初対戦となった、2016年の全豪オープン3回戦だ。

 当時のアザレンカはケガから復活し、全盛期のフォームを取り戻しつつある第14シード。対する大坂は、初のグランドスラム本戦の舞台を踏む18歳。3年前の全豪優勝者と、新時代のパワーテニスの騎手の対戦は、センターコートに組まれ大きな注目を集めた。

 その期待の一戦はしかし、元女王の6-1,6-1の完勝で終わる。そして何より印象的だったのは、試合後の大坂の言葉だった。
 
「実を言うと、このような形で彼女(アザレンカ)が私を負かしてくれたことを、ありがたく思っている。だって、物すごく多くをこの試合から学べたし、とても良い経験だったから」

 左右から高質のショットを放つ攻撃力。ベースラインから下がらず深く踏み込み、相手の時間を奪う戦略性と重圧……それらトップ選手の実力を大坂は肌身で実感し、世界の頂点までの距離を測る。なおこの時、コーチとしてアザレンカのファミリーボックスに座っていたのが、現在の大坂のコーチであるウィム・フィセッテだった。

 やや余談になるが、フィセッテコーチを巡る符号も、大坂とアザレンカの共通点だ。昨年秋、再浮上を志したアザレンカはフィセッテとの二人三脚を望み、実際に2人は幾度か話し合いの場も持ったという。そのさなかに大坂からのオファーも受けたフィセッテは、素直にアザレンカに相談した。するとアザレンカは、「私はシーズンをフルで戦うことはできない。なおみのコーチになるチャンスを、あなたから奪おうとは思わない」と言ったという。

 大坂とアザレンカでは、それぞれのキャリアにおける現在地も、この先に残された時間も違う。ただ、その2人が世界の頂点を目指して再始動を切ろうとした時、参謀として白羽の矢を立てたのは同じ人物だった。この事実は、目指す地点やそこに至るために描く順路が、極めて似ていたことを示しているだろう。ならばその2人が、再び立つ全米オープン決勝戦で相まみえるのは、必然なのかもしれない。
 
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2人に共通する“負けること”の大切さとは…