国内テニス

「プロの世界のリアル」を知ってほしい。西岡良仁が語る、自ら少数精鋭のジュニア大会を創設する理由

内田暁

2021.01.24

トッププロとして活躍し、影響力がある今だからこそ、ジュニア大会を創設するメリットがあると西岡良仁は言う。写真:THE DIGEST写真部

「人によっては、今じゃないだろうと言いますが、僕は、今しかないって思っています」
 穏やかながら芯の通った語り口調で、西岡良仁はそう言った。

 現在25歳。世界ランキング最高位は昨年2月の48位で、最新では57位。アスリートとして油の乗り切っている今、彼はYouTubeでの情報発信やテニスイベントの設立、さらには企業への投資など、オフコートでも種々の活動に奔走している。

 そして今年の秋には新たに、プロを目指すジュニアを対象にした大会"Yoshi's CUP"の開催を決意した。

 参加応募資格は、男子中学生8名。応募者の中から戦績等を鑑みて、西岡本人が参戦選手を選定する。少数精鋭の狙いは、本気で世界を志す少年たちに、夢を叶えるチャンスを与えるため。西岡はすでに、テニスの普及を狙った間口の広いイベント等は行なってきたため、今回はトップジュニアに対象を絞り込んだ。

 西岡が「今」にこだわるのも、掲げる理念の実現と深く関わるからだ。

「今、僕が動けばいろんな人が動いてくれる。人を動かす力が今の自分にはあると思うので、良い方向にそれを使うべきだと思いました。発言力や知名度がある時の発言なら、子どもたちも耳を傾けてくれる。"今"という自分に一番価値がある時にやることが、一緒に仕事をする人にも、聞く人にもメリットがあると思います」
 
 西岡がそのように感じた契機にも、子どもたちを対象に行なったオンラインセミナーなどがある。西岡は当初、子どもたちからは技術や戦術面の助言を求められるかと思っていたが、実際には「試合のない日のルーティーンはありますか?」「試合当日の朝はどんな準備をしますか?」など、オフコートや日常に関する質問が多かった。

「そうか、子どもたちはプロの真似をしたいんだ」というのは新たに得た知見であり、それら自分に向けられる憧れの視線は、今の自分がトッププロであるからだとの思いを強くする。ならば、その影響力を後進育成に生かそうと思うのは、彼にしてみれば自然な流れだった。

"Yoshi's CUP"の参加者を中学生に規定した背景にも、自らの経験に根差した狙いがある。

「ありがたいことに、僕は盛田正明テニスファンドのおかげで15歳の頃からプロの大会に出られ、そこで結果も残せました。プロの大会を経験するのは、早いに越したことはないと思います。僕の場合は、プロに転向した18歳の時点でランキング400位を切っていて、その年に全米オープン予選を突破し本戦にも出ました。15歳が、僕のキャリアの一つのターニングポイントなので、大会の参加者にも、同じくらいの年齢からプロを見据えてほしいです」