海外テニス

極度の緊張に襲われた大坂を覚醒させた、フィセッテコーチの言葉【全豪オープン】〈SMASH〉

内田暁

2021.02.08

2年ぶりの全豪優勝へ向けて好調なスタートを切った大坂。(C)Getty Images

 開幕前夜は、神経が高ぶって、眠りにつくことができなかった。

 まんじりともせず朝を迎え、試合前に会場でウォームアップを終えても、やはり緊張はほぐれない。

 初戦で対戦するアナスタシア・パブリチェンコワと最後に試合をしたのは、2019年10月の東レパンパシフィック決勝戦。タフな相手であることも、心が泡立つ理由の一つだ。

 最後に、このロッド・レーバー・アリーナで戦った時のことも、チラリと頭をよぎった。

 それは1年前の、全豪オープン3回戦。対戦相手は16歳の新鋭、コリ・ガウフ。大会屈指の好カードとして注目を集めた一戦は、大坂にとって「絶対に負けたくなかった試合」であり、ゆえに敗戦後は、かつてないほどに落ち込んだ悪夢的な記憶でもある。
 
 ただ、そのような緊張に襲われるだろうことは、「想定内」だったと彼女は言う。グランドスラム初戦前夜の浅い眠りも、すでに幾度も通ってきた道だからだ。
 それに今の彼女には、不安や弱さをさらけ出せる相手がいる。

「コーチのウィム(・フィセッテ)に、自分がいかにナーバスかを試合前に打ち明けたわ。そしたら彼は、私がどれだけオフシーズンに、厳しい練習をしてきたか思い出させてくれた。そして今がその成果を発揮する時であり、そのために何をすべきかを話してくれた」

 コーチとのそのような対話が、彼女を落ち着け、やるべきことを明確にした。

 試合開始直後から大坂は、緊張の痕跡などまったく見せることなく、フォアの強打を広角に打ち分けていく。第2ゲームでは、ベースラインはるか後方から鮮烈なウイナーを叩き込み、客席の3割ほどを埋めたファンの歓声を呼んだ。