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国内テニス

ノーランキングからの再挑戦。もうひとりの“94年組”澤柳璃子が現役復帰を決意した理由〈SMASH〉

内田暁

2021.03.16

一度引退した後の全日本選手権でも、18年準優勝、19年ベスト16の成績を残した澤柳璃子。高いポテンシャルを持つだけに、気持ちに火が付けば再び世界を狙えるはずだ。写真:THE DIGEST写真部

一度引退した後の全日本選手権でも、18年準優勝、19年ベスト16の成績を残した澤柳璃子。高いポテンシャルを持つだけに、気持ちに火が付けば再び世界を狙えるはずだ。写真:THE DIGEST写真部

 3年前の3月――彼女は、23歳だった。

 ことさら声を大にして、周囲に「引退」と宣言したわけではない。ただ彼女の中では、ひとつの明確な線は引かれていた。

 ジュニア時代から将来を嘱望されてきた澤柳璃子にとって、テニスプレーヤーとは「ツアーを転戦し、賞金を頂く」ことで生計を立てる人々だ。もっと言えば、ランキングでトップ100に入り、グランドスラムで活躍する……それが、彼女が夢見て目指した「プロ」の世界だった。

 だが23歳を迎えた時点で、彼女の最高ランキングは、2015年末に記録した178位。キャリアの大半をITF(国際テニス連盟)の下部大会で過ごし、グランドスラム本戦は、単複いずれも出られてはいなかった。

 さらに、彼女の焦燥に拍車を掛けたのが、1994年生まれの同期選手の躍進だ。日比野菜緒は既に単複でツアー優勝し、穂積絵莉や二宮真琴、加藤未唯らは、ダブルスでグランドスラム上位進出を果たしている。

 置いていかれている……と、心が急いても不思議ではない。

 それでも、焦りや悔しさを覚えているうちは、まだ良かった。澤柳が、真に「ここが自分の限界かも」と感じたのは、友人でもある同期たちの活躍に、「すごい、おめでとう!」と純粋に思えた時だったという。
 
「悔しいと感じていない。その気持がなくなっているということは、闘争心がなくなっているのかな……」

 自分を信じ切れなくなり、そんな中途半端な気持ちでコートに立つ自分を、許すこともできなかった。

「スポンサーさんや、応援してくれている人たちにも申し訳ない」

 そう感じた彼女は契約先に出向き、お礼とともに事実上の引退を告げる。2018年3月末のことだった。

 ツアーから離れたことで、当然ながら日々の暮らしは変化する。それでも澤柳の生活から、テニスが消えることはなかった。「テニスが嫌になったわけでは、全くなかった」と断言する彼女は、知人の勧めもあり、同年の夏から高校のテニス部のコーチを始める。

 2019年の夏にはウイルソン社と“業務委託契約”を結び、試打会やイベント等で、一般のユーザーやテニス愛好家とボールを打つ機会も増えた。さらに翌年には、大学を卒業し本格的にツアーを回り始めた米原実令のコーチにもなり、練習はもちろん遠征もともにする。

 それらの多彩な経験を通じるなかで、彼女はふと、考え方や視野、さらには技術面でも、幅が広がっている自分に気付いた。
 
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