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【プロの観戦眼2】「アリ地獄」に誘い込むメドベージェフのバックハンドを見よ~久松亮太<SMASH>

赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

2021.04.01

確実に返球してくるメドベージェフのバックハンド。右下は久松亮太プロ。写真:THE DIGEST写真部

 このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のこのショット」がすごいという着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

 第2回は久松亮太プロに話を聞いた。注目しているのは、3月15日に世界ランク2位となった乗りに乗っているダニール・メドベージェフ(ロシア)のバックハンド。

「バックハンドは彼のプレーを象徴しているショットです。どんなに走らされても壁のように返してきますし、そのプレースメントがすごくいい。対戦相手は彼のバックハンドが嫌だと思います。何を打ってもキッチリと返されるので、『攻撃していたはずなのに……』と思わされます」

「アリ地獄」。メドベージェフのプレーを一言で表すと、これがピッタリだと言う。攻撃的なプレーをする久松プロにとっては、「このプレーができたらな」と、うらやましく思うショットでもある。
 
 メドベージェフは長い手足を生かしたフォームで、バックもフォアも独特だ。「海外の教え方は、フォームよりもリズム感。だからあのフォームも修正されずにここまで来たんでしょう」と説明。フォームをマネするのは難しいが、メドベージェフが誘い込む「アリ地獄」をじっくり観戦するのはいいかもしれない。

 それにしても近年のメドベージェフは本当に強い。久松プロはその要因の1つにメンタルの強さを挙げる。きっかけとなったのが、観客からブーイングを浴びた19年全米オープン。

「なかなか自分はヒールでいいとは思い切れないものですが……」と、吹っ切れている様子に驚きながら、「勝っても喜ばないし、コート上で自分を演じられるのはすごいこと。今はどんなポイントの後でも、『一番大事なのは次のポイントだ』と思えているようです」

 ただし、彼のプレーにもまだ上達が必要な部分がある。「足場が安定していることが重要なので、ハードコート向きです」と言うように、獲得している10個のツアータイトルは全てハードコート。クレーと芝での対応力が今後の鍵となりそうだ。

◆Daniil Medvedev/ダニール・メドベージェフ(ロシア)
1996年2月11日、モスコワ生まれ、モンテカルロ在住。198センチ、83キロ、右利き、両手BH。2018年から生活態度を変えてテニスに集中することで急上昇。ツアー3大会で優勝し、19年はマスターズ2大会を含む4大会で優勝、全米オープンでは準優勝。20年にはATPファイナルズを制し、21年全豪オープン準優勝。2021年3月15日に2位にランクイン。コーチはジル・セルバラ氏。18年にダリアさんと結婚。

取材・文●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

【連続写真】相手の攻撃を無力化するD・メドベージェフの守備的バックハンド