海外テニス

【レジェンドの素顔8】エバートが頂点に君臨できたのは、似たスタイルのライバルの存在にあり│前編<SMASH>

立原修造

2021.07.09

エバートは1974年以来13年もの間、グランドスラム大会で必ず1度は優勝しているという大記録をもつ。写真:THE DIGEST写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。前回に引き続き、元祖美少女テニス選手のクリス・エバートを取り上げよう。

 クリス・エバート・ロイドほど、息の長いプレーヤーも少ない。70年代のはじめに台頭し始めてから、80年代後半までトップ・プレーヤーとしての地位を保っていた。栄光を手にすると同時に闘争心を失ってしまうプレーヤーが多い中で、彼女だけはひと味もふた味も違った。彼女はどのようにして自分自身を叱咤激励し続けてきたのだろうか。

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 選手名鑑の「クリス・エバート・ロイド」の項をめくると、いささかうんざりしてくる。2ページあっても書き切れないほどの優勝記録がズラリと並び、これを読み進めていくには1時間を棒に振るくらいの覚悟がいる。

 それは言うなれば、彼女の偉大さの証でもある。だが、こんなに選手名鑑を占領しているのは、女子では他にナブラチロワしかいない。

 クリスが汗と涙を流して勝ち取った数々の栄光に敬意を表して、優勝記録を丹念に目で追うと、ある大記録に行き当たる。それは、クリスの息の長さを如実に物語っているものだ。
 
 クリスは1974年以来、13年間で、グランドスラム大会でかならず1度は優勝している。この記録はよく知られているが、内容ほどには高く評価されていない節もある。驚きだ。この大偉業からすれば、クリスこそテニス史上稀有のチャンピオンだとも言える。

 たとえば、ナブラチロワがクリスのこの記録と肩を並べるためには、今後7年間も連続してグランドスラム大会のどれかに勝たなくてはならない。レンドルにいたっては10年間だ。

 昨今は故障によってテニスコートを去っていく若手選手がやたらに目立つ。どんなに強くても、活躍した期間が短ければ評価は下がる。それだけにクリスの息の長さは驚異に値する。

 なぜこれほどまで、クリスはトップ・プレーヤーの座を維持していられるのだろうか。その秘密を解くために2人のライバルに登場してもらわなければならない。1人はナブラチロワであり、もう1人はトレーシー・オースチンである。

 この2人がいなかったら、クリスの選手生活は案外、短かったかもしれない。彼女が夢見たのは、子どもたちに囲まれた幸せな結婚生活であったし、迷わずにその道を選んでいたかもしれないのだ―――。
 
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似たプレースタイルのオースチンには負けられない…