海外テニス

ジョコビッチとナダルによる“史上最高のセット”にテニス界がどよめく。全仏男子決勝は赤土の王者を倒したジョコビッチと初優勝を狙う22歳のチチパス<SMASH>

内田暁

2021.06.13

テニス界で最も難しいと言われる、“全仏でナダルに勝利”を成し遂げたジョコビッチ(左)。(C)Getty Images

「間違いなく、僕にとってローランギャロスでの最高の試合だ。そしてキャリアを通しても、トップ3に入る試合だった」

 熱戦のコートから会見室に直行したラファエル・ナダルに続き、すぐにインタビュールームの椅子に座った勝者は、興奮冷めやらぬ様子で言った。

 これまでに57もの対戦を重ね、通算成績はノバク・ジョコビッチが29勝で相手をわずか1つ上回る。ただ全仏オープンに限れば、7勝1敗でナダルが大きくリード。特に昨年の決勝で、ナダルが6-0、6-2、7-5でライバルを圧倒したことは、人々の記憶にも強く焼き付いていた。

 今回も、ナダルが勝つだろう——。準決勝を控え、会場やプレスルームを満たしていたのは、そのような空気だった。
 
 デュースを重ねた立ち上がりの2ゲームがいずれもナダルの手に渡り、たちまちゲームカウント5-0とリードを広げた時、入場規制の上限に達した5000人の観客の脳裏には、8カ月前の光景がよぎっただろう。だが1年前と大きく異なっていたのは、表層的には同じに見えるスコア下での、ジョコビッチの内面だ。

「結果はどうであれ、ナーバスにはなっていなかったし、ボールを打つ感覚は非常に良かった。問題は、彼のボールにどうアジャストしていくかだけだった。彼の球質は、他の選手とは全く違う。特に、強烈なスピンが掛かりコーナーに叩き込まれるフォアハンドは」

 昨年の敗戦を糧とし、「明確な戦略的プランを用意していた」というジョコビッチは、ここから異なるシナリオを描きはじめる。まずはサービスゲームをキープすると、そこから3ゲーム連取。結果的に第1セットはナダルの手に渡るが、ナダルの球質にも慣れ始めたジョコビッチが、内容的には肩を並べる。気温の下降に伴い低くなったバウンドも、世界1位に味方しただろうか。第2セットは、ジョコビッチが取り返した。
 
 そして……、後にプレスルームの記者たちが、「テニス史上最高のセット」と声を上げた、この試合の分水嶺が訪れる。
 
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