控え目な歓喜の表出は、優勝が相手のダブルフォールトで決まったためか、それとも、決勝戦の相手が、長く苦楽を共にした同期の友人だったためか……。
「マッチポイントのセカンドサーブは、前に出て叩こうと思っていた。緊張もあったので、ホッとしました」
勝者の川村茉那は、その瞬間を思い出したかのように、目じりを下げ安堵の笑みをこぼす。「リードすると気持ちが引く」と自認するクセを振り払うべく、勝負に出た最終ゲーム。長いラリーでも攻めの姿勢を崩すことなく、ウイナーを連発し一気に勝負を決めに掛かった。
一方の光崎楓奈は、ファイナルセットで常に先行しながらも、「焦ってしまい」リードを守れなかったことを悔いる。2時間越えの熱戦に、身体が悲鳴を上げかけてもいた。特に最後のゲームとなったサービスゲームでは、気持ちを張り詰め打ち合った長いラリーを、2本連続で落としたことで心身のスタミナを削られる。
「取ろうとしてもポイントが取れなく、体力的にも厳しかったので、スッと気持ちが抜けたところがあった」
ダブルフォールトは、その帰結。光崎が警戒していた「攻撃しても深くボールが返ってきてミスさせられる」という川村の強さを、象徴するようなフィナーレだった。
共に2001年生まれの川村と光崎は、必ずしも同世代のトップランナーではなかったという。同期で脚光を浴びたのは、世界ランク169位に達した内藤祐希や、16歳で大人に混じり国際大会でも活躍した内島萌夏ら。
「祐希ちゃんや、うっちー(内島)がいつも上にいて、私たちはベスト4という感じ」。ジュニア時代の相関図を、光崎が追懐する。
ただ雑草魂とでもいうべきか、10代半ばの頃から川村と光崎は、珍道中よろしく海外遠征へも飛び出して、早くからタフさを身に付けた。
「遠征には慣れました。それに、2人でラケットバッグを背負って不安そうにしていると、みんな親切にしてくれるんです」
サバイバル秘儀を明かす川村の笑みに、穏やかな自負もにじんだ。
プロ転向1年目の2020年は、新型コロナウィルス感染拡大により、2人とも実戦の機会を奪われる。川村その期間を「ベースアップの時間」と定め、コーチと共に持ち味である戦略性を磨くことに費やした。
具体的には、コーチを対戦相手に想定しての「相手の動きを見て、コースや球種を読む」訓練。ベースライン後方に下がれないようにするため、あえて狭いテニスコートでボールを打ち合い、「スライスを打つなど、駆け引きの練習をしてきた」とも言った。
ただ実戦の場がないために、果たして今の取り組みが正しいのか、成果が出ているのか実感できない不安がつのる。優勝スピーチで口にした「練習でやってきたことの正しさが確信できた」の背後には、そのような手探りの日々が広がっていた。
本戦初出場での全日本選手権優勝に、川村は「驚いている」と言った後に、「グランドスラム本戦に行くために、楓奈ちゃんと一緒に頑張っていきたい」と続けた。「普段から根拠を持って練習してきた」の言葉の先に、見据える目的地が映る。
優勝時の歓喜の表出が、控え目だった最大の理由――、それはこの全日本のタイトルが、「本当に通過点だと思えている」からだ。
取材・文●内田暁
◆女子シングルス決勝の結果(11月6日)
川村茉那(フジキン)[7] 6-1 3-6 6-4 光崎楓奈(h2エリートテニスアカデミー)[15]
◆男子シングルス準決勝の結果(11月6日)
清水悠太(三菱電機)[1] 6-2 6-3 山崎純平(日清紡ホールディングス)[6]
今井慎太郎(イカイ)[3] 6-2 6-7(2) 7-5 片山翔(伊予銀行)
【全日本選手権PHOTO】昨年の決勝の激闘を厳選写真で振り返り!
「マッチポイントのセカンドサーブは、前に出て叩こうと思っていた。緊張もあったので、ホッとしました」
勝者の川村茉那は、その瞬間を思い出したかのように、目じりを下げ安堵の笑みをこぼす。「リードすると気持ちが引く」と自認するクセを振り払うべく、勝負に出た最終ゲーム。長いラリーでも攻めの姿勢を崩すことなく、ウイナーを連発し一気に勝負を決めに掛かった。
一方の光崎楓奈は、ファイナルセットで常に先行しながらも、「焦ってしまい」リードを守れなかったことを悔いる。2時間越えの熱戦に、身体が悲鳴を上げかけてもいた。特に最後のゲームとなったサービスゲームでは、気持ちを張り詰め打ち合った長いラリーを、2本連続で落としたことで心身のスタミナを削られる。
「取ろうとしてもポイントが取れなく、体力的にも厳しかったので、スッと気持ちが抜けたところがあった」
ダブルフォールトは、その帰結。光崎が警戒していた「攻撃しても深くボールが返ってきてミスさせられる」という川村の強さを、象徴するようなフィナーレだった。
共に2001年生まれの川村と光崎は、必ずしも同世代のトップランナーではなかったという。同期で脚光を浴びたのは、世界ランク169位に達した内藤祐希や、16歳で大人に混じり国際大会でも活躍した内島萌夏ら。
「祐希ちゃんや、うっちー(内島)がいつも上にいて、私たちはベスト4という感じ」。ジュニア時代の相関図を、光崎が追懐する。
ただ雑草魂とでもいうべきか、10代半ばの頃から川村と光崎は、珍道中よろしく海外遠征へも飛び出して、早くからタフさを身に付けた。
「遠征には慣れました。それに、2人でラケットバッグを背負って不安そうにしていると、みんな親切にしてくれるんです」
サバイバル秘儀を明かす川村の笑みに、穏やかな自負もにじんだ。
プロ転向1年目の2020年は、新型コロナウィルス感染拡大により、2人とも実戦の機会を奪われる。川村その期間を「ベースアップの時間」と定め、コーチと共に持ち味である戦略性を磨くことに費やした。
具体的には、コーチを対戦相手に想定しての「相手の動きを見て、コースや球種を読む」訓練。ベースライン後方に下がれないようにするため、あえて狭いテニスコートでボールを打ち合い、「スライスを打つなど、駆け引きの練習をしてきた」とも言った。
ただ実戦の場がないために、果たして今の取り組みが正しいのか、成果が出ているのか実感できない不安がつのる。優勝スピーチで口にした「練習でやってきたことの正しさが確信できた」の背後には、そのような手探りの日々が広がっていた。
本戦初出場での全日本選手権優勝に、川村は「驚いている」と言った後に、「グランドスラム本戦に行くために、楓奈ちゃんと一緒に頑張っていきたい」と続けた。「普段から根拠を持って練習してきた」の言葉の先に、見据える目的地が映る。
優勝時の歓喜の表出が、控え目だった最大の理由――、それはこの全日本のタイトルが、「本当に通過点だと思えている」からだ。
取材・文●内田暁
◆女子シングルス決勝の結果(11月6日)
川村茉那(フジキン)[7] 6-1 3-6 6-4 光崎楓奈(h2エリートテニスアカデミー)[15]
◆男子シングルス準決勝の結果(11月6日)
清水悠太(三菱電機)[1] 6-2 6-3 山崎純平(日清紡ホールディングス)[6]
今井慎太郎(イカイ)[3] 6-2 6-7(2) 7-5 片山翔(伊予銀行)
【全日本選手権PHOTO】昨年の決勝の激闘を厳選写真で振り返り!
関連記事
- 「シングルスの決勝で戦いたいね」2人で転戦したヨーロッパ遠征で力を付けた20歳の川村茉那と光崎楓奈が全日本選手権の決勝の舞台へ<SMASH>
- 【全日本テニス選手権】今西美晴がベスト4進出!「最近の若い子はうまい」現状を受け入れた29歳が迷いを断ち切って勝利<SMASH>
- 【全日本テニス選手権】坂詰姫野が第1シード圧倒で8強入り!屈辱を糧に成長した20歳「目指しているのは優勝」<SMASH>
- 【全日本テニス選手権】ベスト8進出の21歳、白石光が「年齢のせいにして逃げない」と覚悟を決めた新たな戦い<SMASH>
- 【全日本選手権】20歳の新鋭、齋藤惠佑がシード撃破でブレークの予感。「プロとの差」を詰めたコロナ禍でのトレーニング<SMASH>