国内テニス

「結果が出ない」心の揺れと向き合った苦しい1年を乗り越え、果たした綿貫陽介のチャレンジャー初優勝

内田暁

2019.11.11

ベテラン杉田祐一(左)との日本人決勝に勝利し、チャレンジャー大会初優勝となった綿貫陽介(右)。写真:兵庫県テニス協会/兵庫ノアチャレンジャー

 いつもは饒舌な彼が、言葉につまって、うまく優勝スピーチを紡げない。
「杉田さんのことも、自分のスポンサーについても言及するのを忘れちゃって……色々やらかしちゃいました」と、後に申し訳なさそうに頭をかいた。

 感極まって、言葉にならない――その姿が、初のATPチャレンジャー優勝が、綿貫陽介にもたらした物の大きさを物語っていた。

「プロになってから、一番苦しい1年だった」と、彼は2019年シーズンを振り返る。
 2016年のプロ転向以降、綿貫は比較的、出場大会数を絞ってツアーを転戦してきた。フォームの改善も含めた練習やトレーニングに時間を裂き、プロの世界で戦うための土台作りをするとの意図もあっただろう。

 そうして満を持した今季は、出場大会数を増やし、長期遠征にも挑んだ。だが勢いに乗りかけた矢先、ケガもあり思うように結果が残せない。「意気込んで練習しまくって、テニスの調子は良くても勝ちきれない」という時もある。「実力が足りない」と感じたこともあった。
 
「8週連続で大会にも出たけれど、1回戦で負け、次の準備をして挑んでもまた1回戦で負けてを繰り返すと、色んなことを考える時間があり、色々と考えすぎた部分もあるし……」

 それは、テニスを職業に選んだ者ならば、多くが経験するある種の通過儀礼でもあるだろう。あと一歩が届かない、噛み合いそうで噛み合わない……そんなもどかしさを抱えたまま、時間は無情に流れていく。夏には、チャレンジャー3大会連続初戦敗退もあり、年初頭には171位だったランキングも、今回の神戸チャレンジャーを迎える時には302位まで落ちていた。
 
 それでも多くを考えたなかで、綿貫は、この苦しさを「色々と、良い経験ができた1年」だと、とらえていたという。

「こういう苦しい時期もあって、それはそれでいっかなと。終盤に来て、自分のなかで少しずつ調子もテニス的にもよくなり、何かひっかれば、何か噛み合えば、もしかしたらあるなと感じつつ、でもシーズンも残り少ないので難しいかなと思いつつ……」