海外テニス

相手の負傷棄権で2回戦に進んだ大坂なおみ。今の目標は勝ち負けよりも「全て出し切ったと感じてコートを去ること」<SMASH>

内田暁

2022.09.21

大坂の東レPPO初戦は、サビルの負傷棄権という消化不良の勝利だったが、「試合を欲している」という大坂にとって次戦がある意義は大きい。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 勝者としてコートを去る大坂なおみに、笑顔はなかった。3年ぶりの日本での凱旋試合は、開始わずか14分、予期せぬ形で終幕を迎えたからだ。

 大坂が自身のサービスゲームをキープし迎えた、第2ゲーム。対戦相手のダリア・サビルは、フォアハンドを打った直後に声を上げ、ヒザを抱えてコートにうずくまった。

 悲痛な叫び声と、起き上がれる気配すらないその姿は、プレー継続不可能であることを見ている人たちにも予感させる。大坂は素早く自分のベンチに駆け戻ると、タオルを手にして倒れるサビルのもとへと運んだ。

 トレーナーの治療を受け、一度は立ち上がりコートに戻る意思も見せたサビルだが、軽くステップを踏んだ後に、やはり無理と悟ったのだろう。両選手は握手と会話を交わし、こうして大坂は東レパンパシフィックテニス1回戦を突破した。

 試合後、その足で会見室に現れた大坂の顔には、当然ながら満足感や達成感の色はない。まずは「ダリアはケガから戻ってきたばかり。早い回復を祈っている」と、対戦相手を気遣った。自身も今季、ケガに苦しめられてきただけに、寄せる同情はより深い。

 総ポイントわずか11の攻防では、自身の調子を測るのも難しいだろう。先の全米オープン時から、復調の鍵に挙げていたフォアハンドも、火を噴くまでには至らなかった。本人が「練習では良いフォアも打てていた」というその成果のお披露目は、次の試合に見送られた。
 
 その次の対戦相手は、今季好調のベアトリス・ハダッドマイア。8月上旬にカナダで開催されたナショナルバンク・オープンで準優勝し、ランキングも自己最高の15位を記録している(現在は16位)。

 プレースタイルは、185センチの長身から打ち下ろすサーブと、長い腕をしならせ放つ強打が持ち味。大坂と似たタイプとも言えるが、サウスポーという利点が相手にはある。

 なお本人は「多分初対戦だと思う」と言ったが、実際には一度の対戦があり大坂が勝っている。とはいえそれも、7年前のこと。データとしては、ほぼ何の意味も持たないだろう。

 今大会の初戦勝利は、本人も「勝った気はしない」とこぼす消化不良の結末ではある。それでも、ここ3大会連続で初戦敗退だった大坂にとって、「次の試合」がある意義は大きい。

 全米での敗戦後、「今は目標について何も考えられない」と言っていた彼女だが、今は「試合を欲している」と明言した。その上で彼女は、こうも続ける。

「たとえ勝とうが負けようが、コートを去る時に、自分の試合に満足していたい。過去数試合での私は、フラストレーションを溜め気持ちが乱れていた。ここ(東レPPO)は、私が過去に優勝した最も好きな大会だし、ファンの皆さんも見てくれている。ここまでやってきたことや学んだことを、全て出し切ったと感じてコートを去ることが今の目標」

 果たして次の試合でコートを去る時、彼女は日本のファンにどのような表情を見せてくれるのだろう? 最初の答えは、9月22日に明らかになる。

取材・文●内田暁

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