男子テニス元世界ランク1位のマルセロ・リオス氏(チリ/46歳)が母国の大手ニュースメディア『La Tercera』のインタビューに登場。具体的な説明もなく自身とのコーチ契約を一方的に終了した中国出身の17歳、シャン・ジュンチャン(195位)を痛烈に批判した。
身長175センチと小柄ながらも高い身体能力を生かしたプレーで90年代後半に活躍した元世界王者のリオス氏は7月末にシャンのコーチに就任。指導者として初めて選手を受け持つことになったものの、シャンはリオス氏のサポートを背に類まれなる才能を遺憾なく発揮していく。
今年8月の1週目にアメリカ・レキシントンで行なわれたチャレンジャー(下部大会)では中国人選手として史上最年少となる同カテゴリー大会での優勝を達成。同時にシャンは男子テニス史上5番目の若さでチャレンジャー大会の覇者となった。21年8月の全米オープンジュニアで準優勝を収めたシャンは、8月初旬の時点で340位台だったランキングをわずか1か月半ほどで195位へと一気にジャンプアップさせたのだ。
レキシントン大会の初戦では体調不良に見舞われたボールパーソンを介抱したことで話題となり、17歳とは思えない優れた人間性と抜群のテニスセンスを兼ね備えているシャン。そんな彼の大躍進の裏にはコーチに就任して間もないリオス氏の支えが大きく関わっていたはずだ。だが今回のインタビューで同氏はシャンが2回戦敗退を喫した先週のケーリー・チャレンジャー(アメリカ・ノースカロライナ/ハードコート)を最後に「コーチ契約を終了した」と告白。ところがそれを知らされたのは「アトランタからサラソタに移動していた飛行機の中」で、シャン本人からではなく「代理人を通じて聞いた」ものだったと言う。
空港に降り立ってから米国在住のシャンの両親と面会したリオス氏は同選手の父親に「もう契約を終了するのか?」と尋ねたところ、父親は「ああ」と回答。リオス氏は続けて「師弟関係を解消する理由を教えてほしい」と要求したが、これに対する父親の答えが「一言も理解できなかった」と説明している。
リオス氏はシャンの父親と度々指導法や文化の違いをめぐって衝突することが多かったそうだ。またシャンも「あまりしゃべらず、私が何か言うたびに『はい、はい、はい』と言うだけだった」と明かす。「コーチ契約終了は父親の決断なのだろう」と予想したリオス氏は「コミュニケーションが取れないと人を育てるのは難しい」とも話し、シャンと別々の道を歩むのも時間の問題であることを認識していたようだ。
それでも別れ際にはシャンヘ向けて「君の成功を祈っているよ 。あなたはとてもうまくプレーするが、まだ学ぶべきことがたくさんある。これからも頑張って。必要なことがあれば、何でも言ってくれ…」と伝えたと明かした。
現役時代には粗暴な言動が絶えなかったことから「悪童」とも称されたリオス氏。だが指導者としての腕は確かであったことがわかるだけに、何とも後味の悪い形となってしまったのが気の毒である。
文●中村光佑
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