国内テニス

「Yoshi's Cup」最大の意義は支援金ではない。西岡良仁がジュニアたちに伝えた“世界に挑むテニス界のDNA”<SMASH>

内田暁

2022.12.19

「第2回 Yoshi's Cup」、左から“西岡賞”の遊川大和、優勝の前田透空、主催者の西岡良仁、2位の富田悠太。大きな優勝カップに前田の名が刻まれる。写真:Yoshi's Cup/長浜功明

「劣勢な状況でも、あまり負ける気がしなくて」

 得てきた「自信」の効能を、前田透空(とあ)はそう語る。前週、愛媛で開催されたジュニア国際大会で単複を制し、連勝街道を走る前田が、「Yoshi's Cup」でも5戦全勝。今年で2回目を迎える同大会の頂点に立ち、巨大トロフィーに名を刻む栄誉を勝ち取った。

 Yoshi's Cupは、男子テニスで世界36位につける西岡良仁が、自ら企画し運営する16歳以下のジュニア大会だ。参戦選手の8名は、西岡自らがセレクト。優勝者および西岡が見込んだ1選手には、活動支援金が与えられるのが最大の特徴だ。その額、優勝者は200万円、"西岡賞"は50万円。プロ転向前の中学生や高校生が手にするには、間違いなく大金だ。

 ただ参戦者たちにとって、支援金以上のモチベーションとなるのは、栄誉や注目度である。昨年の第1回が評判となったため、ジュニア選手たちの間では、この大会に呼ばれることが一つのステータスや目標となっていた。

「去年出ていた8人の選手が、強くて僕にとっては憧れの人たち。そんな中に自分も選ばれ、強い選手たちと対戦したいと思っていました」

 そう言い目を輝かせるのは、中学3年生の永嶋煌。ひと月前、Yoshi's Cupに選出されたことを告げられた時は、感極まって「泣きました」と照れ笑いを浮かべる。今大会は結果的には6位だったが、「2歳上の選手と戦える機会は普段ない。将来を考えるうえでも良い経験になりました」と、充実感をにじませた。
 
 今大会で最も悔しい思いをし、西岡の伝える「勝利にこだわってほしい」の薫陶を苦く噛みしめたのは、準優勝の富田悠太だったろう。11月には、ダンロップ主催の全豪オープンジュニアWC選手権を制し、世界へ羽ばたく足掛かりをつかんだばかり。今大会唯一の2年連続出場者であり、昨年も準優勝だっただけに、「優勝しか狙っていない」姿勢で挑んだ大会だった。

 周囲からも優勝候補と目された富田にとって、最大の敵は、己の内にいたかもしれない。初日のラウンドロビン、そして準決勝でも盤石の強さを誇ったが、決勝戦では第1セットのタイブレークで、5-1のリードから逆転を許す。その落胆が尾を引いたか、第2セットは前田の攻撃テニスに押し切られた。

「勝ちにこだわっていたんですが、勝ち切れない、取り切れないことが多く、そこが自分の今後の課題」。敗戦後に語る富田は、タイブレークでの心理についても、次のように振り返った。

「5-1になった時に、後ろに下がったんです、取れると思って。そこが自分の甘いところ。リードしても挽回されることはいくらでもあるし、プロの大会だったら、みんな最後までファイトしてくる。それまで以上のプレーで上げていかないと巻き返される」
 
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西岡が感じた「選手たちの意気込みの上昇」