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早期釈放されたベッカーがつらかった刑務所での日々を明かす「誰も私が誰であるか気にしない」<SMASH>

中村光佑

2022.12.21

8か月にわたり収監されたベッカー氏は「刑務所では番号で呼ばれていた」とつらかった日々を振り返る。写真は4月29日の最終審理でのベッカー氏。(C)Getty Images

 今年4月にイギリス・ロンドンで行なわれた自身の破産宣告をめぐる裁判で、禁錮2年6か月の実刑判決を受けて収監された男子テニス元世界王者ボリス・ベッカー氏(ドイツ/55歳)。英国内の早期釈放制度により今月15日に母国に帰国した彼が、このほどドイツ・メディア『SAT.1.』のインタビューに登場し、約8か月にわたる刑務所での生活を振り返った。

 2017年に破産宣告を受けた後、現役時代に獲得したトロフィー9個やメダルなどの資産を隠したとして、破産法の下で24件の罪に問われたベッカー氏。

 4月8日の陪審裁判では、トロフィーなどを引き渡さなかったとする9件や150万ユーロ(約2億2800万円)以上の財産を隠蔽したとする7件などについては無罪とされたものの、財産開示の不履行と債務隠しの2件など計4件については有罪が確定。最大で禁錮7年の実刑判決を受ける可能性が浮上していたが、同月29日に行なわれた最終審理で裁判官から2年6か月の禁錮刑を言い渡された。

 その後、11月中旬にイギリスの大手タブロイド紙『The Sun』をはじめ複数の海外メディアが「ベッカー氏に早期釈放制度が適用される見込みとなった」と報道。同氏が収容されていたとされる刑務所の関係者は、早期釈放制度の具体的な詳細について「英国からの退去義務が課されている定刑に服している外国人であれば、刑期の最も早い釈放時点の12か月前までに刑務所から退去し、出所した者を国外に追放することができるものだ」と説明していた。
 
 これに則る形で2012年からイギリスに居住していたベッカー氏が、「クリスマス(12月25日)に間に合うようにドイツに送還されるという計画」に合意。収監から1年も経たないうちに仮釈放で刑期を終えることとなった。

 インタビューの冒頭で「私は刑務所ではボリスではなく、A2923EVという番号で呼ばれていた」と明かしたベッカー氏は、収監生活のなかで「誰も私が誰であるかを気にしない。自分のことを誰も気にかけてはくれない」と日々感じていたという。

 続けて自身の過ちを反省しつつ、「私は厳しいことを学んだ。とても貴重なことだったが、同時にとてもつらい経験だった。でも、今回の件は私にとって非常に重要で価値のあることを教えてくれた。物事にはそれなりの理由があるものだ。自分の中の人間らしい部分、そしてかつての自分を再発見できたと思う」とコメント。今後の人生における新たな教訓を得られたと語った。

 その一方で精神的に苦しかった収監生活から解放されることには興奮を隠せなかったと告白。「釈放される日の朝6時から、ベッドの端に座って、独房のドアが開く瞬間を待ち望んでいた。朝7時半に迎えに来てくれて、ドアの鍵を開けて『準備はいいか』と聞かれた。私は『行こう!』と答えたよ。事前に全部荷造りをしていたんだ」と話した。

 予定よりも早く自由の身となったベッカー氏は今後どうなるのか……四大大会で6度の優勝を誇るレジェンドの動向に注目が集まっている。

文●中村光佑

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