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高まる侵攻国選手への反発にベラルーシのサバレンカが心情吐露「私はウクライナに悪いことをしていない」<SMASH>

中村光佑

2023.04.21

ベラルーシで生まれたというだけで批判にさらされる現状に、サバレンカは心を痛めている。「私にはどうすることもできない」と胸の内を明かした。(C)Getty Images

 いまだに収束の兆しが見えないロシアのウクライナ侵攻は、プロテニス選手の間でも大きな軋轢を生んでいる。そんななか、女子世界2位に君臨するベラルーシ国籍のアリーナ・サバレンカ(24歳)が、自身を含め侵攻国出身のプレーヤーへの風当たりが強い現状に対する苦しい胸の内を吐露した。

 テニス系海外メディア『UBITENNIS』によると、現在開催中の女子テニスツアー「ポルシェ・グランプリ(4月17日~23日/ドイツ・シュツットガルト/インドアクレーコート/WTA500)でベスト8に進出したサバレンカは、2回戦後の記者会見で以下のように現在抱えている苦悩を明かしたという。

「私に対する変な視線を感じることが多いし、おそらく一部の人たちから嫌われているのだろうとも感じる。それでも今はただ、私はウクライナに悪いことは何もしていないと思っている。私がベラルーシで生まれたというだけで、私を嫌いになる人もいる。ただそれに関しては、私にはどうすることもできない」

「基本的に何もしていないのに人々から嫌われるのはいい気分ではないけれど、そういう雰囲気になっている。戦争を止められるならそうしたいけど、残念ながら私の手には負えないし、私がコントロールできることではない。私は政治とは何の関係もない。私はベラルーシのアスリートで、自分のスポーツでベストを尽くそうとしている。ただ自分自身に集中しようとしているだけよ」
 
 今年1月の全豪オープン制覇をはじめ大きな飛躍を遂げているサバレンカは、ロシアのウクライナ侵攻を支持する母国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領に、自身の存在を知られていると語る。実は最近も国民議会の指導者演説でルカシェンコ大統領が、来年7月開催のパリ五輪で侵攻国出身のアスリートが出場を禁じられる可能性があることについて言及した際に、突如サバレンカの名前を挙げたというのだ。

 また、彼女が全豪優勝を成し遂げた直後にもルカシェンコ大統領は「テニス競技団体が実施したルールに従い、中立の立場でプレーしているにもかかわらず、人々はサバレンカ選手がどこの国の選手であるかを知っている」とのコメントを出していた。

 だが、ベラルーシ・テニス界のヒロインは依然として侵攻国出身のアスリートが多大な批判を浴びているなかで、自身に向けられたルカシェンコ大統領の称賛の言葉に違和感を抱いていると発言。「(彼の言葉が)何の役にも立っていないことは確かね」と前置きし、大統領を次のように批判した。

「彼は私の試合について好きにコメントできるし、彼がしたいことについても好きに話すことできるから、私はそれに対して何を言っていいかわからない。でももし、彼の言葉でウクライナ人が私をより憎むようになったら、私はどうしたらいいの? もし彼ら(ウクライナ人)が私を憎むことで気分が良くなるのであれば、私は喜んでその手助けをするわ」

 卑劣な戦争に終止符が打たれなければ、平和の実現が難しいことは確かだ。そんななかでどうすれば以前のような平穏な日々を取り戻せるのか、テニス界でも模索の日々が続いている。

文●中村光佑

【PHOTO】初優勝のサバレンカをはじめ、全豪オープン2023で熱戦を繰り広げた女子選手たち!