「今年一番、悔しい試合」

　そう唇を噛んだ敗戦から、わずか９日後——。加藤未唯は、パートナーのアルディラ・スチアディとともに、女子テニスツアー優勝のトロフィーを掲げていた。

　表彰式で隣に立つのは……すなわちクリーブランドの決勝で破った相手は、先週のウェスタン・サザンオープン（８月14日～20日／アメリカ・シンシナティ／WTA1000）で敗れたばかりの、メリチャーマルティネス／ペレス組。今季ツアー２度目の優勝は、悔いを喜びに昇華させる、鮮やかなリベンジ劇でもあった。

　全米オープン前哨戦のクリーブランド選手権（８月20日～26日／アメリカ・クリーブランド）は、ツアーの中では最も低いWTA250カテゴリーに属する。

　だがダブルスのドローが出た時に、加藤はそのレベルの高さに驚いた。第１シードは、世界１位ペアのシニアコワ／クレイチコワ。メリチャーマルティネス／ペレスは第２シードにつけ、今季のダブルスレース４位の青山修子／柴原瑛菜が第３シード。

「WTA250ではありえない顔ぶれ。誰が優勝するんだろう？」

　ドローを眺めながら、加藤はそんなことを漠然と思っていたという。
  　果たして大会序盤から、強敵相手の厳しい戦いが続いた。ただ１つ勝ち、２回戦も勝った頃から、「この大会で勝ったら、すごく自信がつくだろうな」と直感したという。本人曰く、「スイッチが入った」瞬間だ。

　そのような予感を抱いて勝ち上がった決勝戦で、相まみえたのが「悔しい試合」の相手だったのも、決して偶然ではないだろう。

　今季の加藤たちに見られるのは、同じ相手と複数回対戦し、過去の勝敗を伏線や補助線としながら、物語を紡ぐようにツアーを戦っている足跡だ。

　先週の対戦でメリチャーマルティネス／ペレスに敗れたのも、実は４か月前のマドリード大会が伏線になっている。その時は初戦で当たり、加藤たちが勝利した。そのイメージもある中での再戦となったシンシナティでは、「相手の球の質が前回より遥かに高かった」事実に、驚いた側面もある。

　だからこそクリーブランドでは、「良いボールが来ること」を念頭に入れ、器用なペレスの技と、低い軌道のメリチャーマルティネスの強打に備えた。