身体を鋭角な「く」の字に折り曲げ咆哮を挙げると、両手を幾度も、幾度も天に突き上げた。
四方のスタンドに会釈し、ベンチに向かって歩く時……高揚感の切れ目に何かがこみ上げたように、目元を手で覆う。ベンチに腰を下ろし、タオルに顔を沈めると、小刻みに肩を震わせた。
「ここ最近、チャレンジャーやデビスカップ、アジア大会でも苦しい負けが続いていた。ATPのツアーで1勝というのは自分の中ではすごい長かったので、本当にホッとしたというか、少し気が抜けた時に、ちょっと感情的に今日はなっちゃいました」
試合からさほど間を置かず行なわれた、記者会見。ジャパンオープンテニス初戦で、世界31位のトマス・マルティン・エチェベリを6-4、7-6(5)で破った望月慎太郎は、涙の内訳をそう振り返った。
望月が朴訥な口調で述べた「苦しい負け」の続く日は、キャリア最高のシーズンの途中で彼を襲った。
今季は、4月にイタリア開催のチャレンジャーで優勝。ウインブルドンでは予選を突破し、キャリア初のグランドスラム本戦にも出場した。
「着実に成長している。焦りや心配はない」
口にする言葉にも、自信が滲んでいた。
「苦しい」時期が訪れたのは、その直後。戦いの場を欧州のクレー(赤土)や芝から、ハードコートに移した時だ。
「クレーコートはイレギュラーもするし、自分も走ってボールを返せた。芝は苦手とする選手も多いので、そこで自信もあった。でもハードコートでは、もうとにかくみんなボッコボコ打ってくるので、そこに不安だったり、自信を失っていた時間はかなりあった」
16歳だった4年前に、ウインブルドンJr.を制した望月の武器は、ネットプレーなどの多彩なショット。何より、相手を分析し、試合の中でも即興的にプレースタイルを変えて勝利への筋書きを描く、適応力と創造性にあった。
だが大人になり、一層フィジカルに勝る相手と戦う中で、自分の持ち味が消される試合も増えていく。その葛藤のなか、いかなるプレースタイルを確立するかに関しては、今年のウインブルドン時点でも、「やっぱり色々と意見がありますし、自分でも考えたり迷ったりは自然と出てきちゃう」と打ち明けていた。それだけに、ようやく見えた進むべき道が、ハードコートに入った途端に消えていく不安は、彼の心に重くのしかかった。
そのような雑念を振り払うためだろうか。今の彼は、ランキングを気にしていないという。今回のエチェベリ戦の時も、ウォームアップ中にアナウンスされる自身のランキングを聞いて、「そんなに落ちていたのか」と驚いたという。
「ここだけの話ですが……」と前置きし、「昨日の午後は1人でカラオケに行って。思いっきり歌って試合のことを忘れようと思って行きました」とも恥ずかしそうに明かした。「最近はまっている」というEXILEを熱唱し、最終的には「ネットプレーなどで攻めていくのが自分の武器。そこをやっていかないと、チャンスもない」との決意を新たにした。
「過去は変えられない」と前を向き、「ランキングを気にせず」に立ち向かったエチェベリは、望月が勝利した最高位の選手。ウイニングショットは、フォアをストレートに打ち込むと迷わず前に出て叩き込んだ、ネット際でのスマッシュだった。
取材・文●内田暁
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【関連記事】望月慎太郎と島袋将がウインブルドンで初の予選突破!異なる道を歩んできた二人の“共通する信念”<SMASH>
四方のスタンドに会釈し、ベンチに向かって歩く時……高揚感の切れ目に何かがこみ上げたように、目元を手で覆う。ベンチに腰を下ろし、タオルに顔を沈めると、小刻みに肩を震わせた。
「ここ最近、チャレンジャーやデビスカップ、アジア大会でも苦しい負けが続いていた。ATPのツアーで1勝というのは自分の中ではすごい長かったので、本当にホッとしたというか、少し気が抜けた時に、ちょっと感情的に今日はなっちゃいました」
試合からさほど間を置かず行なわれた、記者会見。ジャパンオープンテニス初戦で、世界31位のトマス・マルティン・エチェベリを6-4、7-6(5)で破った望月慎太郎は、涙の内訳をそう振り返った。
望月が朴訥な口調で述べた「苦しい負け」の続く日は、キャリア最高のシーズンの途中で彼を襲った。
今季は、4月にイタリア開催のチャレンジャーで優勝。ウインブルドンでは予選を突破し、キャリア初のグランドスラム本戦にも出場した。
「着実に成長している。焦りや心配はない」
口にする言葉にも、自信が滲んでいた。
「苦しい」時期が訪れたのは、その直後。戦いの場を欧州のクレー(赤土)や芝から、ハードコートに移した時だ。
「クレーコートはイレギュラーもするし、自分も走ってボールを返せた。芝は苦手とする選手も多いので、そこで自信もあった。でもハードコートでは、もうとにかくみんなボッコボコ打ってくるので、そこに不安だったり、自信を失っていた時間はかなりあった」
16歳だった4年前に、ウインブルドンJr.を制した望月の武器は、ネットプレーなどの多彩なショット。何より、相手を分析し、試合の中でも即興的にプレースタイルを変えて勝利への筋書きを描く、適応力と創造性にあった。
だが大人になり、一層フィジカルに勝る相手と戦う中で、自分の持ち味が消される試合も増えていく。その葛藤のなか、いかなるプレースタイルを確立するかに関しては、今年のウインブルドン時点でも、「やっぱり色々と意見がありますし、自分でも考えたり迷ったりは自然と出てきちゃう」と打ち明けていた。それだけに、ようやく見えた進むべき道が、ハードコートに入った途端に消えていく不安は、彼の心に重くのしかかった。
そのような雑念を振り払うためだろうか。今の彼は、ランキングを気にしていないという。今回のエチェベリ戦の時も、ウォームアップ中にアナウンスされる自身のランキングを聞いて、「そんなに落ちていたのか」と驚いたという。
「ここだけの話ですが……」と前置きし、「昨日の午後は1人でカラオケに行って。思いっきり歌って試合のことを忘れようと思って行きました」とも恥ずかしそうに明かした。「最近はまっている」というEXILEを熱唱し、最終的には「ネットプレーなどで攻めていくのが自分の武器。そこをやっていかないと、チャンスもない」との決意を新たにした。
「過去は変えられない」と前を向き、「ランキングを気にせず」に立ち向かったエチェベリは、望月が勝利した最高位の選手。ウイニングショットは、フォアをストレートに打ち込むと迷わず前に出て叩き込んだ、ネット際でのスマッシュだった。
取材・文●内田暁
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