「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2023」(10月16日~22日/東京・有明/ハードコート/ATP500)は、20日に車いすの部シングルス決勝を実施。第1シードの小田凱人が第2シードの真田卓に6-3、6-3で勝利し、同大会初のタイトルを手にした。
チェアがハードコートを駆ける金属音と、17歳の王者の吐く息が、満席に近いショーコートに響く。ネット際で跳ねた真田のドロップショットは再びコートに触れるが、2バウンドまで許されるのが、車いすテニスが唯一通常のテニスと異なる点だ。ベースライン後方からボールへ猛進する小田が左腕を一閃、打球は真田の脇を抜けていく。咆哮と共に拳を振り上げると、チェアはその場でクルリ、クルリと旋回した。
昨年は決勝で敗れ悔し涙を浮かべた小田が、1年前の誓いを果たし、頂点へと駆け上がった。
「俺らしくないな」
こみ上げる悔しさをかみ殺すように小田がそう言ったのは、先の全米オープン初戦で敗れた時だった。それは彼にとって、初めて世界1位として挑んだグランドスラム。その背に注目と期待を集めた17歳は、「色々と背負っている感情には正直なった。ちょっとかっこつけすぎたかな」と、自分自身に問いかけていた。
その日から、1カ月半――。小田は「注目度やプレッシャーは、今回の方が大きかったんじゃないかな」と述懐する。
ただ彼は「それをうまく、自分の中でパワーに変えて試合ができた」と言った。常々、「車いすテニスのすごさ、格好良さ」で見る者を魅了すること、そして「子どもたちに夢を与えること」が目標と公言する彼には、客席の大半が埋まった決勝戦のコートは、最も燃えるステージだろう。前日は「課題」だと言ったサービスが、この日は強風の中で一層の武器となる。
「去年よりも、良い姿をみなさんに見て頂けたのがうれしい!」
優勝スピーチではマイクを手に、会心の笑みを広げた。
優勝候補として日本開催の大会を戦うことは、困難を伴いもするだろう。だが小田は、「ホームの難しさはあまり感じたことがない。僕の中では、それはうれしいこと」とさらりと言う。
もちろん、「1位のプレッシャーはある」と認めた。その地位が、彼を受け身に回らせたこともある。だからこそ今大会では、「1位になっても関係なく、ガンガンと向かっていくのが僕のやるべきこと」と自身に言い聞かせた。それは、若さの特権には限りがあることを、深く自覚しているからに他ならない。
「それができるのは、あと数年。若さ溢れる熱いプレーは今の自分にすごく必要なので、それを失わないようにやっていくのが一番かなと思います」
両親や友人も見守るなか、彼は若さを迸らせ、挑戦者のように戦い、王者の地位を確立した。
「自分らしくできたと思います」
それは彼が自身に与える、最高の評価だろう。
取材・文●内田暁
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昨年は決勝で敗れ悔し涙を浮かべた小田が、1年前の誓いを果たし、頂点へと駆け上がった。
「俺らしくないな」
こみ上げる悔しさをかみ殺すように小田がそう言ったのは、先の全米オープン初戦で敗れた時だった。それは彼にとって、初めて世界1位として挑んだグランドスラム。その背に注目と期待を集めた17歳は、「色々と背負っている感情には正直なった。ちょっとかっこつけすぎたかな」と、自分自身に問いかけていた。
その日から、1カ月半――。小田は「注目度やプレッシャーは、今回の方が大きかったんじゃないかな」と述懐する。
ただ彼は「それをうまく、自分の中でパワーに変えて試合ができた」と言った。常々、「車いすテニスのすごさ、格好良さ」で見る者を魅了すること、そして「子どもたちに夢を与えること」が目標と公言する彼には、客席の大半が埋まった決勝戦のコートは、最も燃えるステージだろう。前日は「課題」だと言ったサービスが、この日は強風の中で一層の武器となる。
「去年よりも、良い姿をみなさんに見て頂けたのがうれしい!」
優勝スピーチではマイクを手に、会心の笑みを広げた。
優勝候補として日本開催の大会を戦うことは、困難を伴いもするだろう。だが小田は、「ホームの難しさはあまり感じたことがない。僕の中では、それはうれしいこと」とさらりと言う。
もちろん、「1位のプレッシャーはある」と認めた。その地位が、彼を受け身に回らせたこともある。だからこそ今大会では、「1位になっても関係なく、ガンガンと向かっていくのが僕のやるべきこと」と自身に言い聞かせた。それは、若さの特権には限りがあることを、深く自覚しているからに他ならない。
「それができるのは、あと数年。若さ溢れる熱いプレーは今の自分にすごく必要なので、それを失わないようにやっていくのが一番かなと思います」
両親や友人も見守るなか、彼は若さを迸らせ、挑戦者のように戦い、王者の地位を確立した。
「自分らしくできたと思います」
それは彼が自身に与える、最高の評価だろう。
取材・文●内田暁
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