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海外テニス

「チームのみんなのために…」失意の敗戦から一転、21連勝の快進撃を続ける大坂。その成長の理由とは?

内田暁

2021.02.22

フォトセッションでの大坂チーム。向かって右端がフィセッテコーチだ。(C)Getty Images

フォトセッションでの大坂チーム。向かって右端がフィセッテコーチだ。(C)Getty Images

 自分がいかに緊張しているか、どのような心境でいるのか?

 それらを包み隠さずさらけ出すことで、彼女はコーチのウィム・フィセッテらとの信頼関係を、確立してきたと言う。今回の決勝を控えた時も、優勝への最大のモチベーションは「チームのみんなのため」だと明言した。

 そしてそれらは、フィセッテと顔を合わせたばかりの1年前には、欠けていたエッセンスだという。

「1年前の私は、彼の前に出ると緊張してあまり話せなかった」

 “プロフェッサー”と呼んでいたコーチとの関係性を、大坂はそう回想する。

「彼女にどう接すれば良いのか手探りだった。試合前の彼女には、あまり話しかけない方が良いのかと思っていた」

 教授と呼ばれるコーチも、素直に打ち明ける。距離感を測りかねていたのは、お互い様だった。
 
 苦しさを吐き出せぬ孤独な戦いを続けていた1年前の全豪で、彼女は3回戦で敗退する。相手は、当時15歳のコリ・ガウフ。自身と多くの共通点を持ち、姉のような親愛を公にしてきた後進に喫した敗戦は、「今も悲しい記憶として燻っている」ほどの傷を心に残した。

 その痛みを抱えて迎えたフェドカップでは、ランキングでは大きく下回るサラ・ソリベストルモに、0-6、3-6の完敗。涙にくれ、「全てを失った」と感じるのほどの、失意のどん底に突き落とされた。

 その大坂にフィセッテは、「こんなことで、全てを失うはずがない」と、強く説いたという。その頃から2人は胸襟を開き、互いの思いや本質を徐々にさらけ出すようになる。
 
「けっこうウィムはおっちょこちょいだし、変なジョークも言うの。試合でノートを取り続けている姿に騙されちゃだめよ」

 茶目っ気たっぷりに大坂が笑えば、コーチは「もう僕のことを“プロフェッサー”とは呼んではくれないよ。ただの“ウィム”さ」と苦笑いした。
  
 会見等で、コロナ禍によるツアー中断の間に起きた最大の変化は何かと問われるたび、大坂は「精神的な成長」だと答え、その理由を次のように説明してきた。

「他者に本当に自分を見せるようにし、そうしたら周囲の人も私に本心を見せ、良い影響を及ぼしてくれるようになった」。

 全てを失ったと思った、スペインでの敗北から1年――。8月のツアー再開後、彼女は21試合戦い、ただの一度も負けていない。

 2年前には、彼女を「怖がらせた」ほどの“ロールモデル”の解釈も、今は少し変わっている。

「若い人がロールモデルを選ぼうとした時、それになりうるテニス選手が、世界には500人は居る。もちろん、子どもたちが私のことを好きだと言い、私の試合を見て応援してくれることは、本当に光栄だと思っている。

 でも同時に、そのことをあまり重く捉えすぎないようにしているの。だって私は、まだ人間として成長過程にいる。だから出来ることなら、私をロールモデルと見る子どもたちと一緒に、成長していきたいって願ってるの」

 そう言い優しく微笑む姿は、まさに「平穏」な心の様相を映していた。 

文●内田暁

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