今季、ここまで3人のグランドスラム女王が誕生したと前述したが、ツアー全体の流れを見れば、トップを走るのが世界1位のバーティーなのは間違いない。全米オープン前哨戦のシンシナティ・マスターズを含め、今季ここまで5大会で優勝。その内訳も、芝が1大会、クレー1大会、そしてハードが3大会と全てのサーフェスを制している。あらゆるショットを難なく操る天才肌なオールラウンダーは、25歳を迎えた今、才能を勝利に昇華する術を体得した感がある。
一方の大坂は、この3年間で4つのグランドスラムを獲得してはいるが、その内訳は、全米2回に、全豪2回。つまりはいずれも、ハードコートだ。プレーの全能性や完成度という意味では、バーティーが上をいくのは多くの識者も認めるところ。ただハードコートの大坂には、高速サービスとコートのどこからでもウイナーを奪える破壊力で、相手をねじ伏せる実直な華がある。
ここ数年でのグランドスラムの実績、対照的なプレースタイル、そして近い年齢。女子テニス界に一本の主題を通すライバルとして、大坂とバーティー以上に相応しい2人はいないだろう。
この2年間対戦のない2人の頂上決戦への期待は、大会前の会見にも映されていた。
「なおみがハードコートで特別なのは、どんな点か?」
そう問われたバーティーは、「彼女ほどに、サーブと、それに続く3球目を強烈に打つ選手とは、かつて対戦したことがない」と即答した。
「特にハードコートでは、ボールのバウンドはほぼ一定。彼女はバウンドを信じ、実に気持ち良くボールを打ち抜く。それがハードコートでの彼女が、あれほどに強い理由」
よどみなく答える様には、来たる対戦の日を想定している明瞭さがあった。
一方、バーティーの活躍について問われた大坂の返答は、純粋な敬意に満ちる。
「あれだけ安定して結果を残しているのは、すごくクール。彼女に秘訣を聞いてみたい。だって私は、あんなに安定したシーズンを送ったことがないから」
バーティーが大坂に向ける目とは異なる視座だが、大坂もまた、バーティーの活躍に大きな関心を向けているのは間違いなさそうだ。
大坂本人はバーティーの安定感をうらやむが、こなした試合が少なくても、狙いを定めた大会で結果を残せるのが大坂の強さの秘訣でもある。とはいえこの夏以降、得意とするハードコートでの試合は東京オリンピックを含め5試合にとどまっており、戦績は3勝2敗。さすがに試合勘や、重ねた自信が不足している感は否めない。
そうなると大切になるのが、大会序盤の戦い方。初戦のマリー・ボウズコワや、3回戦での対戦が予測されるユリア・プチンツェワら、トリッキーな試合巧者との対戦が続きそうだ。そこを我慢強く勝ち抜けば、バーティーも絶賛する「ボールを打ち抜く能力」がコート縦横に描かれ出すだろう。
そのステージに大坂が至ったとして、もちろん、他の選手たちの動向を予測することはできない。ただできることならば、この後も長くファンが語り、熱狂し、足跡の交錯の集積が物語をつむぐライバルとの対戦を望まずにはいられない。エンターテインメントの町に戻ってきた今年の全米オープンこそが、新たな始まりに相応しいのだから。
取材・文●内田暁
【PHOTO】大坂なおみの2020全米オープン制覇を厳選写真で振り返る
一方の大坂は、この3年間で4つのグランドスラムを獲得してはいるが、その内訳は、全米2回に、全豪2回。つまりはいずれも、ハードコートだ。プレーの全能性や完成度という意味では、バーティーが上をいくのは多くの識者も認めるところ。ただハードコートの大坂には、高速サービスとコートのどこからでもウイナーを奪える破壊力で、相手をねじ伏せる実直な華がある。
ここ数年でのグランドスラムの実績、対照的なプレースタイル、そして近い年齢。女子テニス界に一本の主題を通すライバルとして、大坂とバーティー以上に相応しい2人はいないだろう。
この2年間対戦のない2人の頂上決戦への期待は、大会前の会見にも映されていた。
「なおみがハードコートで特別なのは、どんな点か?」
そう問われたバーティーは、「彼女ほどに、サーブと、それに続く3球目を強烈に打つ選手とは、かつて対戦したことがない」と即答した。
「特にハードコートでは、ボールのバウンドはほぼ一定。彼女はバウンドを信じ、実に気持ち良くボールを打ち抜く。それがハードコートでの彼女が、あれほどに強い理由」
よどみなく答える様には、来たる対戦の日を想定している明瞭さがあった。
一方、バーティーの活躍について問われた大坂の返答は、純粋な敬意に満ちる。
「あれだけ安定して結果を残しているのは、すごくクール。彼女に秘訣を聞いてみたい。だって私は、あんなに安定したシーズンを送ったことがないから」
バーティーが大坂に向ける目とは異なる視座だが、大坂もまた、バーティーの活躍に大きな関心を向けているのは間違いなさそうだ。
大坂本人はバーティーの安定感をうらやむが、こなした試合が少なくても、狙いを定めた大会で結果を残せるのが大坂の強さの秘訣でもある。とはいえこの夏以降、得意とするハードコートでの試合は東京オリンピックを含め5試合にとどまっており、戦績は3勝2敗。さすがに試合勘や、重ねた自信が不足している感は否めない。
そうなると大切になるのが、大会序盤の戦い方。初戦のマリー・ボウズコワや、3回戦での対戦が予測されるユリア・プチンツェワら、トリッキーな試合巧者との対戦が続きそうだ。そこを我慢強く勝ち抜けば、バーティーも絶賛する「ボールを打ち抜く能力」がコート縦横に描かれ出すだろう。
そのステージに大坂が至ったとして、もちろん、他の選手たちの動向を予測することはできない。ただできることならば、この後も長くファンが語り、熱狂し、足跡の交錯の集積が物語をつむぐライバルとの対戦を望まずにはいられない。エンターテインメントの町に戻ってきた今年の全米オープンこそが、新たな始まりに相応しいのだから。
取材・文●内田暁
【PHOTO】大坂なおみの2020全米オープン制覇を厳選写真で振り返る