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海外テニス

覚醒シフィオンテクが圧倒的な優勝候補。大坂なおみの現在地、そして注目の対抗馬は?【全仏OP展望】

内田暁

2022.05.22

 では、覚醒した感の強いこの女王に、対抗しうるのは誰だろうか?

 順当なら、世界2位にして昨年全仏の単複優勝者であるバルボラ・クレイチコワ(チェコ)の名が挙がるところだ。だが彼女は、2月以降ケガでツアーを離れており、今大会が復帰戦。さすがに多くは望めないだろう。

 3位のパウラ・バドサ(スペイン)や4位のマリア・サッカリ(ギリシャ)らは、クレーとの相性も含め上位進出候補だが、現状ではやや決め手に欠ける。そこで目を引くのは、6位のオンス・ジャブール(チュニジア)だ。

 ここまでクレー4大会に出場し、優勝1回、準優勝1回。女子テニス界きっての“くせ者”として知られるチュニジアのパイオニアが、新たなステージに足を踏み入れた感がある。これまでも、絶妙なドロップショットやトリックショットで観客を沸かせ上位勢を苦しめてきたが、最後は敗れ、名脇役的な地位に甘んじてきた。そんな彼女が、勝利への執念を露わにし、接戦を勝ち切り、キャリア最大のタイトルをもマドリードでつかみ取った。

 テニスという競技の多様性……とりわけクレーコートの特性を楽しむうえでも、ジャブールは注目したい選手だ。

 優勝争いという意味では、大坂なおみの名を候補に挙げるのは、やや無理があるだろう。それでも、通常はトップシード選手のみが呼ばれる大会前会見に大坂は現れ、会見室には多くの記者が詰めかけた。例年この時期に話題になる“アスリート長者番付”でも、全体の19位につけている。昨年の同大会での、会見拒否発言とそれに伴う騒動も、彼女に注がれる注視の理由の一つだろう。

 昨年は最終的に、うつを告白したうえで大会から身を引いた大坂が、今年の全仏オープンに懸ける想いは強かった。スペインのマヨルカ島に前入りし、1週間のクレーコート準備期間を設けたことにも、それは現れていた。

 ただ4月末のマドリード・オープンで足首を痛め、翌週のローマ大会は欠場。全仏も欠場の可能性が囁かれたが、「それだけはありえない」と、会見では断言した。痛みはまだあると言うものの、「ケガを抱えながら、良い結果を残したことは過去にもある」と自らを鼓舞する。初戦の相手は、全豪オープンで大熱戦の末に敗れた、アマンダ・アニシモワ(アメリカ)。この第一関門を突破すれば、勢いに乗る可能性もある。

 そのほか日本のシングルス勢では、土居美咲(ミキハウス)が初戦でアリゼ・コルネ(フランス)と対戦する。地元の人気選手なだけにアウェー状態は免れないだろうが、テニスの相性的にも勝機は十分。ともに長くツアーレベルで戦い、酸いも甘いも経てきた両者の対戦もまた、テニス競技を介した人生観の交錯となりそうだ。

 ここ数年流動的だった女子テニス界の勢力図は、種々の予測不能な事態を経て、一つの構図に定まりつつある。ローランギャロスの赤土の上に、最終的な全体像が描かれるかもしれない。

取材・文●内田暁

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