結果的に、第２セットは６－２で宮崎の手に。ただこの２ゲームの粘りが、最終的に大きな意味を持つことになる。第２セット開始から28分経ったこの時、今まさに張り上がったラケットが、加藤のもとに届いたのだ。

「ちょうど良いタイミング！」

　セット間のベンチでラケットを受け取った加藤は、面を軽く叩き張り具合を確かめると、届いたばかりのラケットを手にコートへ向かった。

　打感が確実に良くなったのは、高まった加藤のプレーと闘争心が証明する。

　加藤が勝負を仕掛けたのは、並走状態で至ったゲームカウント３－２のリターンゲーム。リターン時に「腰を深く落とす」ことを意識し、集中力のレベルを上げる。サービスを迎え撃つように前に飛び込み、跳ね際を叩いて深く打ち込むと、ラリーの主導権を握った。

　狙いどおりこのゲームをブレークした加藤が、続くサービスゲームも難なくキープ。続くリターンゲームでは、加藤の深く鋭いリターンが、宮崎のライジングショットを上回っていく。

　そして手にした、３度目のマッチポイント――。

　宮崎のセカンドサービスがラインを割った時、加藤の同大会８年ぶり、２度目の優勝が決まった。最後の宮崎のダブルフォールトは、単なるミスではない。鋭利なリターンで重圧を掛け続けた加藤が、自ら奪い取ったポイントだ。
  　表彰式と会見の終了後。撤収作業も進むストリンガーブースに、謝意を伝える優勝者の姿があった。

「焦りましたよ～、展開の早い試合だったから」

　苦笑いするストリンガーに、「第２セットの最後に粘って良かった」と、優勝者は満面の笑みを返した。

　加藤が国際大会の頂点に立つのは、2016年以来のこと。ITF６万ドルは、手にしたタイトルの中で最も高いグレードだ。

　グランドスラム決勝の舞台を目指し、ダブルスを主戦場に戦ってきた４年間。それは、どこかで「シングルスに再チャレンジしたい」と願いながら、糸口をつかみあぐねた年月でもあった。その機が、親族や小学校時代の恩師も駆けつけた地元京都で訪れたのは、運命であり必然だろう。

　再スタートへの道を敷くように、かみ合った種々のピース。その中には、舞台裏で腕を振るう職人の存在もあった。

◆女子シングルス決勝の結果
○加藤未唯（ザイマックス）[Q] 6-4 2-6 6-2 宮崎百合子（イギリス）[4]●

◆女子ダブルス決勝の結果
○リャン・エンシュオ／ウー・ファンシェン（台湾）[2] 2-6 7-6(5) 10-2 小堀桃子／ルクシカ・クンカム（橋本総業ホールディングス／タイ）●

※[ ]内の数字はシード、[Q]は予選勝ち上がり

取材・文●内田暁

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