専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

「スポットライトを浴びるのは私よ!」自らの野心のために、才能豊かな娘の将来を狂わせるステージママの横暴

レネ・シュタウファー

2019.12.08

ジュニア時代には「スイスの天才少女」と称されたレベッカも現在20歳。2019年11月現在の世界ランキングは701位と精彩を欠く。(C)GettyImages

ジュニア時代には「スイスの天才少女」と称されたレベッカも現在20歳。2019年11月現在の世界ランキングは701位と精彩を欠く。(C)GettyImages

 スイス協会にも電話で連絡をして、これで一件落着と思い込んだマリビだったが、協会はそれほどお人好しではない。

 レネ・シュタムバッハ会長は顧問弁護士に、「今回の国籍変更が法的に問題ないのか」を調査するよう指示したほか、レベッカ本人にも「スペインチームの一員としてフェドカップに参加するのは許可できない」と通告。目下のスペインにはレベッカ以上のランキングに入る選手が1ダース以上いるのだから、現実的に彼女がスペインチームに加わるのは容易ではない。

 シュタムバッハ会長は「(スポーツ界の)協会との無意味な争いは何も生まないことを知ってもらいたい」と強調する。

 会長はまた、これまでスイステニス協会がマサロワの育成に投じてきた金額は10万ドル(約1100万円)を下らないと試算しており、このままスペインに国籍変更となれば、その分の返却を求めるとしている。返却分は「スイスのためにプレーするジュニアの育成費に充てる」というわけだ。
 レベッカの一件は決して珍しいケースではない。テニス界で国籍変更は繰り返し発生している。それまで育ててくれた協会をある日突然離れ、別の国のためにプレーする例はいくらでもあるのだ。例えば、アルヤズ・ベデネだ。スロベニア出身の彼女は数年間、英国のためにプレーした後、再びスロベニアに戻ってきた。

 国際テニス連盟(ITF)の副会長でもあるシュタムバッハ氏は、「ある国が多額の投資を行ない、別の国がその成果を享受するだけの構図というのはよろしくない」として、国籍変更が財政面から考査する動機に成り得るという主張だ。

 スイス女子チームの選手はレベッカの離脱に一様に失望した。仲間から信頼され愛される彼女は、選手としての伸びしろが大きく期待されていた。186センチの長身から放たれるボールの勢いを見れば、誰が将来的にスイス女子チームを牽引していくのか、すぐにわかったものである。

 スロバキア出身の医師を父に持つレベッカには、各業界のスポンサーも注目していた。広告宣伝価値が高いと判断された選手とその協会には多額のマネーが提供されるが、国籍変更となればスイス協会はこの面でも損害を受けることになる。

 ただ、レベッカ本人はあまりの騒動にウンザリの様子で、テニスを続ける気力を失いつつある。協会もフェドカップのチームメイトも実害を免れないが、最も大きな傷を負った犠牲者はレベッカ本人である。

 未来を嘱望された若手選手の両親は、知らずのうちに自らの野心を膨らませ、子どもの幸せよりも己の願望を優先しがちであるとの指摘はあながち誇張でもなさそうだ。何よりも彼らは子どもではなく、自分がスポットライトを浴びる快感に酔いたいからである。

文●レネ・シュタウファー
ITWA(国際テニスライターズ連盟)正会員で、経験豊富なスイス人テニスジャーナリスト。ヨーロッパを中心に第一線で活躍しており、フェデラーやヒンギスとも親交が厚い。2018 年に発刊したフェデラーをテーマにした著書は、スイスでベストセラーとなっている。

構成・翻訳●安藤正純

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号