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海外テニス

全豪でグランドスラム初開催となった「デフテニス」。日本から参戦の喜多美結が掲げる“理念”とは?「誰にとっても生きやすい世の中に」<SMASH>

内田暁

2023.02.14

プレー中も「アウト」や「フォルト」が聞こえず、ずっとプレーを続けていた事もあったと語る喜多。写真提供:喜多美結

プレー中も「アウト」や「フォルト」が聞こえず、ずっとプレーを続けていた事もあったと語る喜多。写真提供:喜多美結

 それでも喜多がデフテニスに出るのは、ある理念があるからだ。

「先ほど言った主審の『タイム』だけでなく、プレー中も『アウト』や『フォルト』が聞こえずにずっとプレーを続けていた事があったんです。そのような事態は、振動でジャッジを知らせてくれるリストバンドなどを付ければ、解決できるかもしれない。あとは主審も、高いチェアに座っているので視界に入りにくく、手の動きがわからない。ですから、視野に入りやすい場所に表示があればわかりやすいと思います。

 そのように、私たちがテニスしている時に必要なものは、日常生活でも必要だねってなりますよね。聞こえる聞こえないに関係なく、見た人が『もっとこうしたらいいんじゃない?」と議論のきっかけにしてくれるだけでもうれしい。テニスに限らずスポーツの場で気付いた事が、社会でも活用されるようになり、誰にとっても生きやすい世の中になるきっかけに繋がれば、デフテニスをやっている意義があるのかなと思います」

 スポーツという、世界中の人々が共有できるプラットフォームを持つことで、社会をより良くできるかもしれない。トップアスリートとしての発信力を獲得することで、人々に自分の考えや想いを伝え、それが世界を変えていけるのかもしれない——。

 デフテニス選手として各地でプレーする中で、彼女はそのような希望を抱き、時には失意も味わってきたのだろう。
 
 だから……と、彼女は笑みを広げて言う。

 卒業後の4月からは、「今度は取材して、伝える立場になるんです」と。

「テレビ局の記者なんです。自分がテニスで結果を出したところで、伝えてくれる人がいないと、障害も含めいろんな当事者の思いって伝わらないんだなって思って。なのでスポーツに限らず、マイノリティの声を拾って伝える側に回りたいなって思っています。

 伝えてくれる人が居るって、こんなにもうれしいことなんだって、自分が取材をしてもらって思ったんです。そういう隠れた思いを持っている人って、この世の中にいっぱいいるんだろうなって思ったので……。そういう視点を持って、伝えていきたいなって思っています」

 世界の大舞台を経て、伝えられる側から、伝える側の世界へと、彼女は歩みを進めていく。

 その先で少しでも、社会が誰にとっても、優しい場所になると信じて。

取材・文●内田暁

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