「僕は彼（綿貫）の試合や練習を、何度も見てきた。練習や対戦の経験はないが、彼がどんなテニスをするか知っていたし、常々、彼の実力はランキングよりも遥かに高いと感じていた。だから今回、初戦の相手が彼だと知った時はうれしくなかった。非常にタフな試合になることが予想できていたから」

　そのような警戒心があったからこそ、第22シードは戦術的にも万全の準備をしていたのだろう。

　サービスに関しても、「彼は非常にリスクを負い、早く打ち返してくることは知っていた。ここ数大会サーブに苦しんでいたので、今日はサーブを工夫した」と述懐した。

　綿貫本人も、自身を見る周囲の目が、急激に変わり始めていることを実感している。

「120～130位の頃は、あまり相手にもケアされていないので、試合でも“隠し玉”みたいなのが使えた」

　その隠し玉が、今は通じない。それは状況を厳しくするが、「僕的にはすごくうれしいこと」と、急成長の25歳は笑った。
  「100位の外にいると、どうしても“ハプニング”のように捉えられる。相手がちゃんと準備してきてくれた状態で、対等に試合をできるようになってきたというのは、やっぱりすごいうれしいことです」

　ランキングが上がれば、大会の対応も変わる。周囲も、敬意を表してくれる。

　その環境が「やっぱりここを維持したい、もっと上に行きたい」との向上心にもつながると言った。

「強い」と肌身で感じた上位選手に喫する敗戦は、自身の実力と地位の向上の証し。

「80位くらい」という今季の目標地点と、「すごく出たい」という来年のオリンピック出場を目指し、躍進のシーズンの終盤戦へと向かっていく。

現地取材・文●内田暁

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