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海外テニス

フェデラーも大絶賛した歴史的名勝負、5時間29分に及んだ「全仏オープン男子決勝」を振り返る<SMASH>

内田暁

2025.06.15

スタンドに詰め掛けたファンの大部分はシナーの勝利を確信したが、「自分を疑ったことはない」というアルカラスは崖っぷちに立たされても決して諦めなかった。(C)Getty Images

スタンドに詰め掛けたファンの大部分はシナーの勝利を確信したが、「自分を疑ったことはない」というアルカラスは崖っぷちに立たされても決して諦めなかった。(C)Getty Images

 人々の期待に満たされた頂上決戦は、立ち上がりから壮絶な打ち合いが繰り広げられる。アルカラスが、空間をフル活用した3Dテニスを展開すれば、シナーは長身から叩き込む超高速ショットで、アルカラスをねじ伏せにいく。先にブレークしたのは、アルカラス。だが、サービスゲームがキープできない。要所をしめたシナーが第1セットを先取した。

 第2セットは、先行するシナーを終盤でアルカラスがとらえるも、最終的にはシナーの手に。第3セットはアルカラスがなんとか取り返すも、第4セットは序盤からシナーが圧倒する。攻守一体の鉄壁のシナーは、最大火力の砲台を備えた要塞といった趣。客席からアルカラスの背に向けられる声には、同情的な響きさえ混じった。

 そして、第4セットの、ゲームカウント3-5でのアルカラスのサービスゲーム。アルカラスのダブルフォールトもあり、リターンゲームながらシナーが3連続マッチポイントを手にした。

 シナーの初優勝の瞬間をとらえるべく、客席の人々がビデオモードのスマホを構える。だがこの究極の局面で、アルカラスはプレーの質を一段高めた。サービスからのフォアハンドのクロス、そしてドロップショット――。絶体絶命の局面で彼が頼ったのは、最も自信を持つ武器だった。5ポイント連取でアルカラスが切り抜け、試合はシナーの“優勝へのサービスゲーム”を迎えた。
 
 チェンジオーバーで選手たちが座るベンチ正面のスタンドには、大会会場の名の由来でもある英雄的パイロット、ローラン・ギャロス氏が愛した一節が書かれている。

「勝利は、誰よりも最後まで諦めない者の元に訪れる」

 この一節は、理論的にはいかなる状況から逆転可能である、テニスの真理を言い表すに相応しい。忍耐力が求められるクレーコートでは、なおのことだ。その文面の真下の赤土には、この言葉を誰よりも体現した男の“足跡”が、証明のように刻まれている。

 試合後の会見で、「3本のマッチポイントに追い詰められた時も、勝利を疑わなかったのか?」と問われたアルカラスは、「もちろん」と即答した。

「僕は、自分を疑ったことはない。絶対に諦めなかった」......と。

 絶対に諦めぬアルカラスは、明らかに、このゲームから纏う空気が変わった。サイドに切れるフォアのクロスは、必死に伸ばすシナーのラケットの先をかすめる。柔らかなドロップショットは、ネットをかろうじて超え赤土に沈んだ。
 
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