追い上げる時のアルカラスは、それまでの自分を超えていく。
2年前のウインブルドン決勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)戦も、そうだった。昨年の全仏オープン準決勝のシナー戦も、そして決勝戦のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)戦も、セットカウント1-2からの逆転劇だ。
あどけない笑顔のためか、シナーやズベレフに比べれば小柄なためか、アルカラスには、巨人ゴリアテに立ち向かうダビデのような、ヒロイックな輝きがある。技と頭脳を総動員し、身を削ってでもウイナーを奪いに行く勇猛さは、観る者の胸を熱くする。スタジアムを揺るがす「カルロス! カルロス!」の大合唱は、さながら英雄を呼ぶ声だ。
「観衆の存在が、ものすごく大切な試合だった。彼らの助けなしに、逆転することは不可能だった」
後に彼は、観客への感謝の言葉を幾度も口にした。
第4セットを逆転で奪ったアルカラスは、第5セットの最初のゲームで、21本の激しいラリー戦を制しブレーク。このまま勝利まで疾走するかに思われたが、まだ、終わらない。ゲームカウント5-3で迎えたアルカラスの“優勝へのサービスゲーム”を、今度はシナーがブレークする。試合の最終盤に向け、両雄は疲労を見せるどころか、冴え冴えとした鍔迫り合いを繰り広げる。
アルカラスの精緻なドロップショットを、シナーがラケットに先に引っ掛けるようにすくい上げ、ネット際に沈めてみせた。シナーのパッシングショットを、アルカラスが背走ぎみにバックで切り返しウイナーにする。試合時間が5時間を超え、この日最高のパフォーマンスを見せる両雄に、スタンドは文字通り、震えた。
試合開始から、5時間29分。アルカラスのパッシングショットがシナーの脇を抜け、ライン際を抉った瞬間、勝者はその場に大の字に倒れ込む。両手で顔を覆い起き上がるチャンピオンの下に、シナーはネットを超えて歩みより、抱擁で互いの健闘をたたえた。
死闘の直後に行なわれるセレモニーでは、トロフィーの授与に続き、アルカラスの母国スペインの国旗掲揚が行なわれた。
かつては本物の国旗が掲げられたが、5年前のセンターコート改修の際にフラッグポールは姿を消し、今は巨大モニターにたなびく国旗の映像が映し出されるのみ。ただ、開閉式屋根やLEDモニターのテクノロジーが導入されても、演出の妙か受け継がれる精神性のためか、この地に宿る伝統と正統性が途切れることはない。
表彰式で国家が流れるグランドスラムは、ローランギャロスだけである。ナダルが、この地で14度流したその曲を、アルカラスが再びスタジアムに響かせた。
現地取材・文●内田暁
構成●スマッシュ編集部
【画像】5時間29分に及ぶ死闘!アルカラス崖っぷちから大逆転優勝!シナーとの激闘を厳選ショットで特集
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あどけない笑顔のためか、シナーやズベレフに比べれば小柄なためか、アルカラスには、巨人ゴリアテに立ち向かうダビデのような、ヒロイックな輝きがある。技と頭脳を総動員し、身を削ってでもウイナーを奪いに行く勇猛さは、観る者の胸を熱くする。スタジアムを揺るがす「カルロス! カルロス!」の大合唱は、さながら英雄を呼ぶ声だ。
「観衆の存在が、ものすごく大切な試合だった。彼らの助けなしに、逆転することは不可能だった」
後に彼は、観客への感謝の言葉を幾度も口にした。
第4セットを逆転で奪ったアルカラスは、第5セットの最初のゲームで、21本の激しいラリー戦を制しブレーク。このまま勝利まで疾走するかに思われたが、まだ、終わらない。ゲームカウント5-3で迎えたアルカラスの“優勝へのサービスゲーム”を、今度はシナーがブレークする。試合の最終盤に向け、両雄は疲労を見せるどころか、冴え冴えとした鍔迫り合いを繰り広げる。
アルカラスの精緻なドロップショットを、シナーがラケットに先に引っ掛けるようにすくい上げ、ネット際に沈めてみせた。シナーのパッシングショットを、アルカラスが背走ぎみにバックで切り返しウイナーにする。試合時間が5時間を超え、この日最高のパフォーマンスを見せる両雄に、スタンドは文字通り、震えた。
試合開始から、5時間29分。アルカラスのパッシングショットがシナーの脇を抜け、ライン際を抉った瞬間、勝者はその場に大の字に倒れ込む。両手で顔を覆い起き上がるチャンピオンの下に、シナーはネットを超えて歩みより、抱擁で互いの健闘をたたえた。
死闘の直後に行なわれるセレモニーでは、トロフィーの授与に続き、アルカラスの母国スペインの国旗掲揚が行なわれた。
かつては本物の国旗が掲げられたが、5年前のセンターコート改修の際にフラッグポールは姿を消し、今は巨大モニターにたなびく国旗の映像が映し出されるのみ。ただ、開閉式屋根やLEDモニターのテクノロジーが導入されても、演出の妙か受け継がれる精神性のためか、この地に宿る伝統と正統性が途切れることはない。
表彰式で国家が流れるグランドスラムは、ローランギャロスだけである。ナダルが、この地で14度流したその曲を、アルカラスが再びスタジアムに響かせた。
現地取材・文●内田暁
構成●スマッシュ編集部
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