■重要だが言語化の難しい「目標を達成したい理由」

　実際に選手たちも、ブレークスルーを実現した時期を振り返り、目標を達成したい強い理由を持っていたことを語っていました。その理由は、「自分の努力が報われてほしいから」、「応援してくれる仲間に恩返ししたいから」など、多岐にわたっています。

　そして、「暇な時間はほとんどテニスに費やしていた」、「相手がいない時は自分でサーブ練習をしたりトレーニングをしたり、自分で自分をプッシュできるようになった」と語っているように、「目標を達成したい理由」に自覚的であることが、選手たちのハードワークを後押ししていたようです。

　しかし、「目標を達成したい理由」を認識することは、意外にも難しいものです。なぜなら、木の根は地上からは見えないように、「目標を達成したい理由」も日頃から意識することの少ない思いや感情であることが多いためです。そこでここからは、「目標を達成したい理由」を考えるための方法を、２つのステップで紹介していきます。

■「目標を達成したい理由」を考えるための２つのステップ

［ステップ①］
書いたり話したりしながらいくつかの理由を考える

「なぜこの目標を達成したいのか？」という思いや感情について考える時、座って悩んでいるだけではなかなか見つかりにくいものです。そこで、紙に書き出してみたり、人と話したりするなど、アウトプットしながら考えていくことがお勧めです。
目標を達成したい理由は、たった一つではないことが多いはずです。「人から褒められたいから」、「怒られたくないから」といった些細だと感じられるものも、立派な理由の一つです。時間をかけて、できる限り多くの理由を見つけていきます。
  ［ステップ②］
出てきた理由の中から価値を感じられるものを見つける

　見つかった理由の中には、自分にとって価値を感じられるものと、あまり気持ちが動かないものがあるのではないでしょうか。そこには「自己決定感」、すなわち「自分で決めたという感覚」をどれだけ持てているかが大きく関係しています。

　たとえば、「親に言われたから」、「コーチに怒られるから」という理由は、自己決定感の低いものと言えるでしょう。一方、「自分の人生にとって大きな意味があるから」、「自分の限界にチャレンジしたいから」といった理由は、自己決定感が高いものだと言えます。

　いくつか見つかった理由の中から、このような自己決定感が高いものに注目して、それを常に意識できるよう、言葉にして持っておきます。そうすると、目標達成を目指していくプロセスで困難に直面した際にも、このことを思い出して努力を重ねていくことができるはずです。

　もし、自己決定感の低い理由しか見つからない場合、設定している目標自体が、自分にとって「絶対に達成したい目標」になっていない可能性も考えられます。その場合は、本連載の第１回に立ち戻り、目標そのものを見直してみると良いかもしれません。

【やってみよう！今日からできる実践へのヒント】
以下のステップで、「目標を達成したい理由」を考えてみましょう！

①書いたり話したりするなど、アウトプットしながらいくつかの理由を考える

②出てきた理由の中から自己決定の度合いが高いものを見つけ、言語化する

解説＝日置和暉
2000年生まれ。慶應義塾体育会庭球部を経て、慶應義塾大学大学院に進学。慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師。プリンス契約コーチ。2023年、日本テニス学会研究奨励賞受賞。

解説＝發田志音
2000年生まれ。慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部を経て、東京大学大学院に進学。2018年、日本テニス学会研究奨励賞受賞。

構成●スマッシュ編集部
※スマッシュ2024年４号より抜粋・再編集

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