「正直に言うと……ですか? 正直、調子は良くないです」
苦しみながらもフルセットで切り抜けた、予選2回戦後のこと。「最近の状態は?」というこちらの雑駁な問いに、内島萌夏はザックリと応じた。
理由は、肩に巻かれたテーピングかと思ったが、それは「痛い時もあれば大丈夫な時もある。試合で巻いているのは予防」との説明。それよりも深刻なのは、「プレーのオプションを増やそうと取り組んでいる中で、自分の土台が揺らいでしまった」ことだ。
この夏に21歳を迎えた内島は、パンデミック後の遠征再開からの1年で、ランキングを500位台から130位まで上げている。4年前より中国のアカデミーを拠点とし、技術面から戦術面に至るまで、テニスを根幹から見直してきた。
急上昇したランキングは、磨きを掛けたフォアの賜物。ただ、次のステージである「オプション増加」へのプロセスで、彼女は逡巡を抱え込んだ。
結果、自分の足元を見失いかけたのが、ここ数週間の苦しい戦い。全米オープン予選での2勝は、進化と現状維持の間で振れる針を、最後はやや現状維持の側に引き寄せ手にしたものだった。
長身を鞭のようにしならせて、ボールの芯を打ち抜く能力の高さは、誰もが認めるところ。だからこそ周囲の人々も、器に多くを詰め込みたくなるのだろう。
本人も「長い目で見て、良い選手になれるのが目的」だと、覚悟は固まっている様子。未完の大器は、いかなる完成形に至るのか? その一歩を、彼女はまだ踏み出したばかりだ。
現地取材・文●内田暁
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