専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
国内テニス

現役引退の元世界70位の尾﨑里紗が振り返る「しんどいテニス」と「楽しいテニス」<SMASH>

内田暁

2022.10.28

20余年に及ぶ現役生活に別れを告げた尾﨑だが、これからは変わった形でテニスとの付き合いは続くという。写真:内田暁

20余年に及ぶ現役生活に別れを告げた尾﨑だが、これからは変わった形でテニスとの付き合いは続くという。写真:内田暁

「周囲に相談できていれば、違ったのかも」

 今になって、そんな「あの時」に想いを馳せることもある。

 それができなかった理由は、「性格的に、もともとペラペラしゃべる方ではないし、自分のことを表現するのが苦手」だと静かに自己分析した。

「もちろんコーチたちとはなるべく話すようにはしてたんですけど、やっぱりどこかで自分の本音が言えなかった。悩みを溜め込んじゃったのも、多分良くなかったのかな。周りに助けてくれる人も居たし、信頼できる人がたくさん居たので、もうちょっと自分をオープンにして話ができていれば、もっと違ったのかもなって」

 自分を表現するのが苦手、という彼女の性質は、今でも垣間見ることはできる。

「なんて言ったらいいんだろう……」、「えーっと……違うな」

 今回のインタビューの間にも、彼女はそれら逡巡や迷いのつぶやきを幾度も挟んでいた。

 言いたいこと、伝えたいことはたくさんあるのに、それを表現する言葉が見つからない――そんなもどかしさと、彼女は誠実に向き合っていた。
 
 テニスの楽しみを知り、自分自身を客観視もできた引退試合までの数カ月を、彼女は「成長が感じられて、うれしかった」時間だと振り返る。

 その成長の喜びは、今後もテニスに携わり、特に子どもたちに自身の経験を伝えていきたいという情熱に昇華したようだ。

「これからは、やっぱり子どもたちやジュニアと関わりたいなって。指導というよりも、頑張ることの大切さとかを教えていけたらと思ってるんです。みんな子どもの頃から結果を求めたり、プレッシャーを感じちゃったりすると思うんです。わたしも実際、そうだったし。でも、トップに行くことだけが全てじゃない。目標を設定して、頑張ることの大事さや楽しさを伝えたり。テニスを通して人間性が上がり、その後の人生が豊かになる手助けができればいいなって」

 今後への思いを口にするこの時も、彼女は「ちょっと違うかな」「なんだろう」と自問自答しながら言葉を探し、最後は「そんな感じです」と恥ずかしそうに笑みをこぼした。

 決して、器用なタイプではない。今もまだ、自分のキャリアを消化できてはいないかもしれない。

 ただそんな彼女だからこそ、次世代に伝えられることが、間違いなくある。自分を表現する方法や言葉を探し、共に歩んでいきながら……。

取材・文●内田暁

【PHOTO】第97回全日本テニス選手権、奮闘する尾﨑里紗らの厳選写真

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号