ラグビー

【ラグビーW杯をヒット記事で振り返る!】痺れるエンディングを導き出したサモアの敢闘精神。それを上回った日本の凄み

吉田治良

2019.11.11

好調を維持する日本は、今大会一番の出来を見せたサモアを力でねじ伏せた。写真:茂木あきら(THE DIGEST写真部)

 人間というのは欲深い生き物だと、つくづく思う。

「ワールドカップで1勝でもしてくれたらいい」と、健気にそう願っていたのが、もう遠い昔のことのようだ。

 格下と見なしていたロシアはもちろん、ティア1の強豪アイルランドを葬り去っても満足などしない。それどころか、"南海の雄"サモアにただ勝つだけでなく、4トライ以上を奪って、あわよくばボーナスポイントまで手に入れられないものかと望むのだ。

 けれど、そうしてファンが欲張るのも無理はない。「自信」という名の鎧をまとった現在のジャパンには、「勝利」と「ボーナスポイント獲得」、その2つのミッションをこともなげにクリアしてしまうだけの、鋼のような強さがあるからだ。

 プール戦突破のために、絶対に勝たなくてはならないというプレッシャーは、間違いなくあっただろう。しかし、ピッチ上の選手たちから、気負いや焦りは微塵も感じられなかった。

「試合に勝つことが最初の目的。まずはそこにフォーカスした」

 ゲームキャプテンを務めたFLのピーター・ラブスカフニがそう振り返ったように、立ち上がりから日本は早いパス回しで揺さぶり、ブレイクダウンで圧力をかけて、サモアのペナルティーを誘発。2分、7分と立て続けに田村がPGを決めて試合を優位に進める。
 
 ただし、SO田村優が「今大会で一番強かった」と称えるほど、この日はサモアの出来も素晴らしかった。6日前、蒸し風呂のような暑さの神戸でスコットランドに完敗を喫したチームは、日中の暑さが嘘のように涼しい風が吹き抜ける豊田で、完全に本来の躍動感を取り戻していた。

 自慢のフィジカルで低く、深くラックに突っ込んでこちらも反則を誘い、9分と15分にPGをお返しする。20分あたりには、密度の高いモールを形成し、日本を押し込むシーンもあった。

 ひとつ目のターニングポイントとなったのは、田村のPGで日本が9-6と再びリードを奪った直後のワンプレーだ。PR稲垣啓太に対するアフタータックルで、24分にサモアのFL、TJ・イオアネがシンビン。この数的優位の状況を、日本は逃さなかった。WTB松島幸太朗、続けざまにLOジェームス・ムーアがクサビを入れるような縦への突進で右サイドにポイントを作ると、そこからSH流大が左へ展開。最後はCTBラファエレ・ティモシーが左中間に飛び込んだ。