マラソン・駅伝

【瀬古利彦が“箱根”を総括】駒澤大の勝因は”チーム力”。創価大はシューズと向い風をうまく活かせたね

永野祐吏(THE DIGEST編集部)

2021.01.28

早稲田大時代4年連続花の2区を走った、瀬古氏。五輪も2大会連続出場した。写真:塚本凜平(THE DIGEST写真部)

 駒澤大が最終10区で3分19秒差をひっくり返す劇的勝利で幕を閉じた、箱根駅伝。日本陸上競技連盟のマラソン強化・戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦氏に同大会を振り返ってもらった。

■駒澤大の勝因について

 驚きの展開になったね。あんなことが起こるなんて誰も思いもしなかったし、当事者もそう思ってなかったでしょう。優勝した大八木監督だって、10区を迎えた時点では2位確保にシフトしていたわけだから。でも、何が起こるか分からないのが勝負事。

 最後まで諦めない姿勢が、駒澤大の優勝に繋がったよね。全体的に安定していたし、大きなミスが無かった。全員が監督に言われたようなタイムで走っていたと思う。だから2番で10区に繋いだ駒澤大のチーム力が勝因かな。

 普通は襷をもらった時に諦めると思うよ。常識からしたら2位狙いで、優勝できるなんて、当事者だって思っていなかったはず。ただ世の中はこういうことあるから、しっかり自分の走りを最後までしないといけないね。

■2位創価大の快走劇

 2位の創価大も出来がよかった。1位で走るなんて夢のようだったのではないかな。トップに立って、4区くらいからは本当に伸び伸び走っていたものね。アンカー以外はほんとうに完璧に走っていて、9区間はすべて区間一桁だよ。内容的に駒澤大よりよかったね。

 創価大の選手は、シューズの特性と向い風の特性をうまく絡ませて、跳ばないように地を這うような走りだった。向い風が彼らにとっては、ひとつ追い風だったね。それとどんな状況であっても、人に惑わされずに、自分の走りに徹していたよ。
 
■身体とメンタルだけで戦う陸上の難しさ

 2位と2分14秒差をつけて往路優勝したことが、かえって「明日は優勝狙わなければいけない」と復路の選手のプレッシャーになったのだと思う。特にアンカーの小野寺勇樹選手(創価大)は、自分に過度なプレッシャーをかけてしまったのかもしれない。脱水症状ではなかったようだから、そうなると精神的問題が大きい。それが彼の走りを変えてしまったんだろう。

 私も初マラソンでは、ふらふらになって、やっとの思いで2時間26分もかかったことがあった。その時「次はこんなことなっちゃいけない」と思い、しっかり練習を積んで2回目のマラソンで、悪い記憶を払拭できた。

 やっぱり陸上の難しさを痛感するね。自分の身体と精神問題だけの世界。そこをコントロールするのは、普段の小さな試合から準備していかないといけない。例えば、差し込み(脇腹痛)も来るんじゃないかと思うと来てしまう。大事な試合ほど、差し込みが来たらどうしようとか、調子悪くなったらどうしようとか、思ってしまうんだよね。だけど、そこは難しいと思うけど払拭しないといけない。ぜひ小野寺選手には今後がんばってほしい。