ラグビー

ボーデン・バレットが開幕戦で示した一流たるゆえん。熱狂なきスタジアムでもスーパースターか"その気"になれた理由とは?

吉田治良

2021.02.22

ついにTLデビューを果たしたバレット。いきなり21得点の活躍で、チームを開幕戦圧勝へ導いた。写真:徳原隆元

 少し動いただけで汗ばむような、まだ2月とは思えない陽気の週末は、ラグビー観戦というよりは、ピクニックにふさわしかったのかもしれない。

 実際、相模原ギオンスタジアムのゴール裏には、冬枯れの芝生の上にビニールシートを敷いて、のんびりと試合を観戦する人たちの姿が目についた。

 この場所で、これから屈強な男たちが身体をぶつけ合い、楕円急をめぐって陣地を奪い合うとは、とても想像がつかない。無粋な陸上トラックもあいまって、緊張感が薄らいでいく──。

 二度の世界最優秀選手に輝いたニュージーランド代表のユーティリティバックス、ボーデン・バレットがトップリーグ(TL)デビューを飾ったのは、そんなスタジアムだった。世界最高峰のスーパーラグビーや、日本で行なわれた19年ワールドカップの熱狂とは、およそかけ離れたピッチに、ラグビー界きってのスーパースターは立っていた。

 サッカーの世界で言えば、リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドが、あるいは29歳という年齢を考えれば、ネイマールやフィルジル・ファン・ダイクのような働き盛りがJリーグにやって来たようなものである。そこが彼にとって本当にふさわしい場所かと問われれば、素直に頷くのは難しい。

 それでもバレットはこの日、サントリーサンゴリアスのSOとして、これぞワールドクラスと言うべきプレーを随所で見せてくれた。
 
 9本中8本を成功させたコンバージョンを含む正確無比のキック、SH流大のトライを呼び込んだ中央を切り裂くランとオフロードパス、適切なポジショニングから鋭く抜け出して奪ったTL初トライ、そして後半19分にはトリッキーなオーバーハンドパスで、WTBテビタ・リーのトライも演出している。

 難易度の高いプレーをいとも簡単に、顔色ひとつ変えずにやってのけるのが、一流の一流たるゆえんだろう。

 では、この収容人数6000人(芝生席を除く)ほどの長閑なスタジアムでも、バレットが変わらずモチベーションを維持できたのはなぜだろう。

 それは、おそらくサントリーというチームのクオリティーの高さに触発されているからではないか。

 確かに開幕戦の相手、三菱重工相模原ダイナボアーズは、歯ごたえのある相手ではなかったかもしれない。とりわけ、11分にこの日唯一のトライを挙げたCTBマイケル・リトルが脳震とうで早々に交代を余儀なくされてからは、パスはつないでも最終局面での決め手を欠いた。

 それでも、的確なサポートでフェーズを重ねる攻撃の連続性や、接点におけるディフェンスの迫力、そして個々のスキルレベルの高さにおいて、サントリーが一枚も二枚も上手だったことは明らかだ。
 
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サントリーは「自分にとても合っている」