格闘技・プロレス

物議を醸した異例の1対3マッチはなぜ実現したのか? 那須川天心が語った“本音”「テレビ向けだったのかな…」

THE DIGEST編集部

2021.06.14

異例の勝負に果敢に挑んだ那須川は、賛否両論を巻き起こした勝負を振り返った。写真:塚本凜平(THE DIGEST写真部)

「疲労感があります」

 これは1対3という異例のマッチメイクに臨んだ後の会見で那須川天心が繰り返した言葉だ。"日本格闘技界の神童"といえども、それだけ心身をすり減らす試合だったのだろう。

 舞台は東京ドーム。MMAイベントとしては18年ぶりの開催となった檜舞台で、那須川に用意されたのは、一切の蹴りを禁じたボクシングに準じたルールで、1ラウンド毎に対戦相手が交代する3ラウンドの変則マッチだった。

 対戦相手は、大崎孔稀、HIROYA、そして「ミスターX」となっていた所英男。戦前から「みんなが思っているほど簡単な試合にならない」と公言していた那須川は、「力み過ぎた。相手に対応するっていうのが精一杯だった。いつもより疲れた」と振り返ったように、ラウンドごとにフレッシュな状態となる敵を前に苦戦。2ラウンド目に対峙したHIROYAからはダウンを奪ったものの、本領は発揮しきれなかった。

 要所で"らしい"テクニカルかつスピーディーな動きは見せた。しかし、目立ったシーンの少なさに周囲の反応はシビアだ。SNSには「残念でしかない」や「やらない方が良かった」、さらには「やらせっぽい」という言葉も踊った。
 
 だが、格闘技界を牽引してきたカリスマは、周囲の冷ややかな反応も承知の上だった。「こんなことできる人なかなかいないでしょ。皆さん、賛否両論あるとは思うけど、普通じゃ得られない経験だった」と言葉を選びながら、地上波での生中継もされたビッグマッチの意義を語った。

「本音を言うと、ちゃんとした試合がしたかったというのはある。でも、どちらかというとテレビ向けの試合だったのかなと思います。やっぱりインパクトのあることをしていかないと視聴率は取れない。それは自分も分かってるんで。

 元々やろうとしていた試合もありましたけど、それが流れたり、対戦相手との調整が合わなくてというのを繰り返したなかで、最大限にできることをやったかな。ちゃんとした試合をやるのは一番ですけど、こういうのも冒険的で良いのかなと思います」

 あらゆる可能性のなかで、大舞台にふさわしいエンターテインメント性を求めた那須川。賛否両論を巻き起こした前代未聞のマッチメイクだったが、当の本人は、意に介していない様子で会場を後にしたのだった。

取材・文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)
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