ラグビー

「W杯8強超え」への切り札になれるか?ラグビー日本代表・齋藤直人が秘める可能性

向風見也

2021.07.05

齋藤は今回の遠征での経験を踏まえ、「ヨーロッパのチームにはないクイックなテンポの部分を伸ばしつつ、ボックスキックの精度はまだまだ上げていかなければと思います」と語った。写真:長田洋平アフロスポーツ

 ずっと、そこにいた。

 日本代表の赤白ジャージを着た齋藤直人が、緑のアイルランド代表をかき回す。身長165センチ、体重73キロの23歳は、スクラムハーフの位置で周囲の加速を促し、接点の真後ろから、その次の接点の真後ろへ移動。地上のボールをすくうや、味方の手先へ投げる連続運動の素早さで、欧州有数の大型チームに挑んだ。ずっと、そこ——つまりプレーの起こる場所——にいたように思わせ、敵地アビバスタジアムのわずかな観衆、液晶画面を見つめる列島の愛好家を唸らせたのだ。

「まずはタフってことが大事だと思う。あとは日本が勝つためにはスピードが重要とずーっと言われているので、スピードのあるプレーにコミットできる選手が必要とされていると感じています」

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いるチームで求められる資質を相対化。複雑に映る戦術に適応できたのも、必然と言えよう。

「迷った時は絶対に(首脳陣に)聞きに行って、自分に何が求められているかを明確にする」
 
 5月下旬からの代表合宿に初めて招かれ、6月12日の強化試合、26日のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとの代表戦で、途中出場から持ち味を発揮。7月3日のアイルランド代表戦では、満を持して初先発した。

 27分に退くまで、永久運動のごときパスワークを全う。突破役に並走してのトライでも光った。

 ただし本人は、接点に絡みつこうとした矢先に反則を取られたり、スペースを狙ったキックの飛距離が想定より伸びすぎたりしたのを悔やむ。

 ノーサイド。31―39。自省する様子さえ前向きに映るとしたら、この若者が周りから努力家として知られるからだ。この午後の課題発見を、確たる肥やしとする。

「1つのミスで流れが変わったり、勝敗を左右したりすると感じました。ヨーロッパのチームにはないクイックなテンポの部分を伸ばしつつ、ボックスキックの精度はまだまだ上げていかなければと思います」

 横浜ラグビースクールで3歳から楕円球に触れ、桐蔭学園高校に入ればノートで底力をつける。己の深部と向き合い、その時々の現在地や目標を言語化。新型コロナウイルス感染症の影響で外に出づらかった2020年春頃には、過去に自ら記した言葉でモチベーションを保ったものだ。