試合前のウォーミングアップ、オールブラックス（ニュージーランド代表の愛称）の仕上がり具合に誰よりも熱い視線を注ぐ人物がいた。ほかでもない、イングランド代表を率いるエディー・ジョーンズHCだ。

「ずっと彼らを打ち負かすためにやってきた。まるまる２年半を費やしてきたと言ってもいい」

　指揮官の勝利への執念が乗り移ったかのように、真紅のバラを胸に抱く戦士たちは圧巻のパフォーマンスを見せつけ、世界王者を攻守両面で凌駕した。内容的には完勝と言っていい、19対７だ。

　記者会見に登場したエディーHCは、「ニュージーランドは本当に素晴らしいチームだった。最後の最後まで気の抜けない、タフなゲームだった」と切り出し、日本語で「ニュージーランドはゴッド（神）」と評して、こう続けた。

「それこそスタートから、我々は闘えるんだというところを見せなくてはいけなかった。だから相手の勢いを殺そうと、なによりそこに注力したんだ。ニュージーランドのエネルギーはどこからやって来るのか、で、それをどうやってそぎ落としていくのか。そしてそこから自分たちの良さをどう活かすのか。我々は見事な規律で立ち向かったね。ゲームプランをしっかり遂行して、相手の弱みを突いて、自分たちのペースで試合を進めることができたと思う」 　開始１分36秒で電光石火のノーホイッスルトライを決めると、一気に流れに乗った。世界最強と謳われるオールブラックスのＦＷ陣を向こうに回し、イングランドはフィジカルで真っ向勝負を挑み、常に優位に立つ。ラインアウト、スクラムのセットピースで敵のミスを誘ってはPGで得点を重ね、ブレイクダウンの球際でも強みを発揮した。

　エディーHCは誇らしげにチームを称える。

「ニュージーランドを相手にしたなら、ずっと高い圧力を維持しなければいけない。彼らがディフェンスから攻めてくるのは分かっていたが、今日はとりわけラックで勢いを付けることができたと思う。キックに対して追い込む動きもうまく行っただろう。言ってみれば、あっちは準備に１週間しか費やしていない。こっちは（組分けが決まった2017年５月から）２年半だ。ずっと彼らを打ち負かすために準備を進めてきた。選手たちがどんな状況になっても対応できたのは、すべてが習慣化されていたからだ。無意識にニュージーランド対策を染み込ませてきた。今日はそんな戦いぶりを示してくれたよ」