格闘技・プロレス

「そう簡単なものじゃない」――井上尚弥が「パッキャオは本当に稀」と提唱する“階級上げのリスク”

THE DIGEST編集部

2021.12.27

カシメロやドネアとの統一戦に含みを持たせつつ、階級上げの可能性を示唆した井上。一方で周囲が急かす風潮には釘を刺した。(C)THE DIGEST

「『とりあえず階級を上げろ』というのは、自分はどうかなと思う」

 ボクシングのWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチを終えた井上尚弥(大橋ジム)は、12月27日にWOWOWにて配信されるスペシャル番組出演後の取材で、階級上げの難しさを、そう説いた。
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 過去にライトフライ級→スーパーフライ級→バンタム級と上げてきた28歳は、「適正だと思う」と語る現階級で文字通り敵なしの強さを誇っている。次なる対戦相手は、WBO世界バンタム級王者のジョンリエル・カシメロか、WBC世界バンタム級王者ノニト・ドネア(いずれもフィリピン)と言われているが、22戦無敗19KOという圧倒的な戦績から王座統一は間違いなしと目されている。

 存在が際立っているからこそ「井上が近いうちに1階級アップさせるのはないか」――。そうした報道が目立っている。事実、本人も「2022年はそこ(4団体統一)にこだわらなくてもいいと思っている。階級を上げることも視野に入れながら。選択肢はある」と色気を見せてはいる。
 
 もっとも、スーパーバンタム級はそう甘い世界ではない。すべての根幹を成すパワー面の違いを埋めるための筋力アップのトレーニング方法も異なり、調整段階から改める必要がある。

 ゆえに階級上げに興味は持ちながらも、冒頭のような異論を唱えるのだ。「パッキャオは本当に稀ですよ。あんな選手は過去にいない」と、6階級制覇(8階級制覇とも言われる)した異端児の名を引き合いに出した井上は、こう続けている。

「自分もライトフライ級から少しずつ階級を上げてきた。でもやっぱり、もうひとつ階級を上げるのは慎重にならないといけない。『敵がいないから上げろ』ってみんな言いますけど、階級をひとつ上げるのはそう簡単なものじゃない。それで自分のパフォーマンスが潰されるなら上げることはしない。そこが階級制のスポーツの難しさ。ファンが見たいのは分かりますけど、しっかりと身体をつくってから上げないと意味がない」

 階級上げのリスクについて熱弁をふるいながらも「慎重に見極めて、早ければ来年後半にスーパーバンタム級に上げることも考えている」と将来的な挑戦を示唆した井上。周囲の風潮に流されず、冷静に務めるその振る舞いに、世界屈指のタレントとなっても浮足立たない"モンスター"の矜持を見た。

取材・文●羽澄凜太郎(THE DIGEST編集部)

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