遡ること34年前。ある偉大なチームが世界を驚かせた。1988年のカルガリー冬季五輪に出場したボブスレージャマイカ代表だ。

　ウインタースポーツとは無縁のジャマイカの選手たちが、ボブスレーで冬季五輪出場を果たした快挙は、世界中でビッグニュースとなった。さらに５年後には、その逸話を基に描いた映画「クール・ランニング」が上映され、世界中でスマッシュヒットを記録した。

　文字通り前代未聞の挑戦だった。そんな“チャレンジャー”の一員が、当時の想いを告白した。米スポーツベッティングサイト『betWay』の取材に応じた元ジャマイカ代表メンバーのデボン・ハリスだ。

　88年のカルガリーに出てから、92年のアルベールビル、98年の長野と３大会連続で冬季五輪に出場したハリス。現在57歳となった彼は、当時のチームをこう回想する。

「あの時の僕らは全員が独身で、若くて、何よりも冒険心に満ちた野郎たちだった。オリンピックに行くために、まるで兵士のようになんでもやったよ。僕らは全員が『難しいことなんて何もない。絶対にやり遂げよう』という意識でいたんだよ」

　チーム結成時は、「お互いに名前や顔も知らなかった」という。それでも「少しずつ打ち解けていって、気づいたら軍隊のような固い結束が生まれていた」とハリスは明かす。しかし、世界的な知名度や援助もなかった当時は、困難の連続だったとも告白する。

「いつも寒い想いをしていて、空腹で、何よりも生きていくのに必死だった。競技に対する恐さなんかよりね。カルガリーで練習をした時のことも忘れないさ。寒さに耐えながら、ハードなトレーニングをした日でさえも、夕食は小さなソーダとロールパン、それにチキンレッグ１本だけ……。みんなが、チームがちょっとでも噂になれば、スポンサーが殺到するって思ってたけど、そんな甘い世界じゃなかったんだ」
  　それでも悲願を達成するために「耐えた」というハリス。苦難を乗り越えて、ようやく手にした五輪の切符に対する“本音”を声高に語っている。

「88年のインパクトは、それまでのありとあらゆることすべて覆いつくしてしまうほどに強烈だった。本当にすべてが素晴らしかった。あの普段なら決して出会うことがない世界各国の人たちと初めて交流できた16日間を、私はユートピアと名付けているんだ。大会後も僕らを何も知らなかったジャマイカの人たちが応援してくれるようになったしね。待ちゆく誰もが親切にしてくれたのは、本当に驚いた」

　そんな“先達”たちが最後に五輪に出てから24年――。目下、開催中の北京五輪のボブスレーにジャマイカ代表が久々に参戦する。まさに大舞台に上がる後輩たちについて「本当に誇らしいし、僕らのレガシーを継いでいてくれることは感謝しかない」と語ったハリスは、冗談交じりに、こう言い残している。

「ジャマイカだけじゃなく、世界中の人たちが、ジャマイカのボブスレーチームを楽しみにしているはずだよ。だけど、あの88年のチームが残したインパクトを越えるには、メダルを獲得することが必要だろうね。僕も期待しているさ」

構成●THE DIGEST編集部

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