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バレーボール

勝てば熱狂、負ければ誹謗中傷も。男子バレー界の伊レジェンドが打ち明ける世界選手権優勝の若き自国代表への想い「パリ五輪は好機だが…」

佳子S.バディアーリ

2022.09.21

24年ぶりの世界制覇を果たしたイタリア代表。次なる目標は五輪の金メダルだ。(C) Getty Images

24年ぶりの世界制覇を果たしたイタリア代表。次なる目標は五輪の金メダルだ。(C) Getty Images

 今年の男子バレーボール代表シーズンは、若い力を爆発させたイタリア代表の世界選手権優勝で幕を閉じた。24年ぶりの王座奪還とパリ五輪への期待に国全体が沸き立つなか、同代表として表彰台20回のレジェンドが、大きな成功の陰に潜む副作用に警鐘を鳴らしている。
 
 胸の内を明かしてくれたのは、元イタリア代表のアンドレア・ゾルジ氏。90年代のバレーボール界を席巻した同代表で大砲として活躍し、1989年欧州選手権と1990年世界選手権で同国史上初の栄冠を手にした。それを皮切りに当時開催されていた国際大会、ワールド・リーグ、ワールドカップとワールドグランドチャンピオンズカップを完全制覇。イタリアをバレーボール大国へ押し上げた立役者の一人だ。

 今年の代表シーズンでイタリアは、一度リズムを崩すと悪い流れを断ち切れないなど危うさが垣間見られ、ネーションズリーグではそれを見逃さなかった日本にフルセットで勝利を奪われた。しかし、世界選手権ではサーブと守備をレベルアップさせて破壊力のある攻撃が復活。試合を重ねる毎に勢いを増し、長い間手放したままだった世界トップの称号を奪回した。無条件で喜んでいるはずと予想したゾルジ氏の言葉は、「本音を言うと優勝は予想外だった」。思いのほか冷静だった。

 その理由は、世界の第一線で戦った経験に根差している。イタリア黄金期と呼ばれ数々の国際大会でトロフィーを掲げて臨んだ1992年バルセロナ五輪で、優勝候補の筆頭はメダル獲得どころか4強入りを果たせず。満を持して臨んだ1996年アトランタ大会では、予選ラウンドを全試合ストレート勝ちで通過。金メダル確実と目されていたが、予選で完勝し直近3連勝中だったオランダとの決勝で、マッチポイントを逃し逆転負けで準優勝に終わった。

 同氏は母国代表が世界王座に返り咲いたことを喜びつつ、素晴らしい成績は時として、途轍もない重圧になると吐露。特に人生経験の浅い若い世代のメンタルを心配している。

「成し遂げたことはすでに過去の出来事であり、それを背負いすぎないことが大切だ。今回の世界選手権優勝に縛られないように、過度な注目から若いチームを守らなければいけない」

 今回の世界選手権に出場した24カ国の内、平均年齢(開幕時点)が最も若かったのはイタリア(24.14歳)、次位は日本(24.5歳)だった。西田有志や高橋藍ら20代を迎えて間もない若き精鋭たちの著しい成長は頼もしく、さらに若年層の新戦力がこれから加わる可能性も大。着々と成果を残し進化の真っ只中にある日本代表にとっても、ゾルジ氏の進言は気になるところだ。

 イタリアは五輪での受難が続き、2004年アテネ大会と2016年リオデジャネイロ大会でも銀メダル。国際大会で唯一手にしていない五輪金メダル獲得は悲願となり、世界王者への復活がパリ五輪への期待を日に日に大きくしている。

「今のチームにとってパリ五輪は好機。ただ、自分の体験から言いたいのは、五輪金メダルへの思いに囚われすぎると予定外の方向へ逸れてしまう場合があるということ。それでも、今のチームが次の五輪で悲願を叶える可能性は大きいと思っている。選手たちは若いがバレーに関して高いクォリティと経験がある。私の時代から大きく変わり、20歳台前半の選手でもより深い見識を持っている」
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