格闘技・プロレス

「ずるい」――賛否を呼んだ最強戦士シュルト。“デカいだけ”ではなかったからこそ極まった格闘技人生【K-1名戦士列伝】

橋本宗洋

2022.11.15

誰が見ても「デカい」と感じる巨漢――。それがシュルトの特徴ではあったが、この男はただ身体が大きいだけの戦士ではなかった。(C)REUTERS/AFLO

 1990年代から2000年代初頭、日本では現在を上回るほどの"格闘技ブーム"があった。リードしたのは、立ち技イベント「K-1」。その個性豊かなファイターたちの魅力を振り返る。
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 K-1で残した実績という面では、史上最高と言っていい。ただそれゆえに、賛否両論を呼ぶ存在でもあった。セーム・シュルト(オランダ)だ。

 ヘビー級のK-1 WORLD GPにおけるシュルトの功績は輝かしいものがある。

 アーネスト・ホースト(オランダ)と並ぶ4度の優勝を果たしているシュルト。2005年から2007年にかけては3連覇を達成。さらに2009年は決勝大会3試合ですべて1ラウンドKO勝利という圧倒的な勝ちっぷりを見せた。

 まさに快挙というしかないキャリア。だがしかし、万人に受け入れられたかというと、そうではなかった。身長212cmのシュルトは他を圧する巨躯の持ち主であり、自慢の長いリーチを使ったパンチや前蹴りを多用した。対戦相手を力いっぱいに突き放し、常に自分の距離をキープする闘い方を得意としたのである。

 距離の奪い合いは、いわば格闘技の生命線。だからこそシュルトの戦法は決して間違いではなかった。むしろ自身の身体を利したものだった。しかし、圧倒的なサイズ感ゆえに、観る者に「ズルい」という印象を与えてしまった。また、ガツガツと打ち合うタイプでもなく「つまらない」と言われる批評される場面もしばしばあった。当時、試合中継で解説を務めたK-1創始者・石井和義館長はシュルトの試合中に「嫌いなんですよ」とはっきりコメントしていたのを筆者は記憶している。
 
 無論、シュルトはただ「デカい」だけで勝ったわけではない。自分の身体的な個性と能力を最大限に活かしたのだ。そもそも格闘技はデカいだけで勝てるものでない。それは彼のキャリアを見ても分かる。

 筆者が初めてシュルトを見たのは、大道塾のトーナメント「北斗旗」だった。空手をベースとして顔面パンチに、投げ技、そして寝技も認められた「格闘空手」(現在は空道という名称に)だ。ここでシュルトは2連覇を達成しているのだが、初参戦では1回戦敗退を喫しているのだ。

 ベルトを巻いたパンクラスでも、UFCでも、PRIDEでも黒星は喫した。とくにPRIDEのリングで、2004年にMMAルールで対戦したセルゲイ・ハリトーノフ(ロシア)にボコボコに打ちのめされる姿を覚えている人も多いのではないだろうか。たしかにシュルトはグラウンドになるとサイズをもて余すようなところがあった。実際、キックボクシングでも、サイズで劣るバダ・ハリ(オランダ)に懐に入られ、KO負けを喫している(後にK-1でリベンジ)。

 つまり、どのジャンル、どの舞台でも、シュルトは己を向き合い、苦労を重ねながら結果を出してきたのだ。そうやってきたからこそ北斗旗、パンクラス、K-1の頂点に立てた。

 苦手としていた立ち技、そしてMMAにも熱心に取り組んだ。そうしたチャレンジを重ねて、ようやくたどり着いたのがK-1での4度の優勝だったと言える。たとえシュルトを「ずるい」と嫌う者がいたとしても、オランダの英雄が歩んだキャリアは色褪せない。

取材・文●橋本宗洋

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