競馬

【名馬列伝】”任せたくなる男” とともに牝馬三冠を成し遂げたスティルインラブ。すべて「2番人気」でライバルをねじ伏せた勝負強さ

三好達彦

2024.09.07

17年ぶりに牝馬三冠を達成したスティルインラブ(左)と、ガッツポーズする幸騎手。右は2着のアドマイヤグルーヴ。写真:産経新聞社

 中央競馬のあらゆる記録を塗り替えている武豊だが、その武の記録をいくつも破った騎手が、ひとりいることをご存知だろうか。騎乗回数における幸英明の記録である。

 2009年に通算10000回騎乗を達成したが、これは武の記録に次ぐ2位でのスピードによる年少達成だった。しかし、次の区切りである2010年5月22日の11000回騎乗達成では、武のレコードを追い抜き、デビューから16年2か月18日という当時のJRA史上最速、最年少記録を樹立した。

 その後、12000回騎乗以降の区切りの騎乗数では幸の独壇場で、19年の20000回、21年の21000回、22年の22000回、23年の23000回、そして今年8月10日の24000回騎乗でも、やはり武の記録を悠々と上回っていた。さらに加えると、12年の騎乗回数は1081回にも及び、このJRA年間最多騎乗記録は今も破られていない。
 
 こうした幸英明の騎乗数の多さは、どう捉えるべきなのだろうか。

 ひとつは、通算1500勝を突破しているように、愛馬を任せるに足る騎乗技術の持ち主であること。これは基本中の基本だろう。2つ目には、頼まれた馬は断らないという仕事に対するスタンスもあるかもしれない。また、幸の誠実さなどのパーソナリティが認められていることがあるだろう。競馬関係者で幸のことを悪く言う人に会ったことがないという事実だけはお伝えしておく。

 そして、コミュニケーション能力の高さもあるのではないか。調教後やレース後、厩舎スタッフに馬の状態を詳細に伝えるのは大切な作業だが、それを彼が実に丁寧に行なうというコメントをある調教師に聞いたことがある。マスコミに対してもそれは同様で、ぶら下がりでの取材であっても質問の一つひとつに丁寧に答え、終わる際に彼自身が「もう大丈夫ですか?」と尋ねてから場を離れるほどで、対応は素晴らしいの一言に尽きる。

 この「信頼される男」「任せたくなる男」のもとへ吸い寄せられるように現れたのが、2003年に史上2頭目の三冠牝馬に輝く名牝・スティルインラブである。
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春のクラシック戦線は名牝エアグルーヴの仔と激突